千堂アリシア、邂逅する
羊羹を買ったアリシアが時間を確認すると、まだ四十分以上あった。なので、
『羊羹も、コインロッカーに入れておいた方がいいですね』
と考えた。
けれど、その時、
「!?」
アリシアの視界の隅に捉えられた<影>。
『ナニーニ!?』
ナニーニだった。間違いない。コデットが見せた写真に写っていた猫が、なんともふてぶてしい様子で歩いていたのだ。塀の上を。なるほど可愛げがあるとは言えない姿。それでも、
『ああ、よかった。無事だったんですね』
アリシアはホッとした。
偶然とはいえ、こうして現認できた以上、<捜索>はこの時点をもって終了となる。念のため、可能な限りのバイタルサインを収集。加えて、ネットを通じて入手した標準的な猫の生体データと付き合わせると、<牛だるま>の由紀子からの情報どおり、加齢によるものと思しきデータの異常が散見された。
とは言え、<高齢の猫>として見ればあくまで標準的なものであり、年齢を考えれば十分に<健康>と言えるのかもしれない。
ただ、残された時間は、確かに長くないのだろう。
<別れ>には備えておかなければいけないのかもしれない。
それについてはコデット自身の問題なので、アリシアとしては口出しのしようもないが。
と、何気なくナニーニに意識を向けていると、僅かな風に乗って<匂い>が。ナニーニの匂いと、別の<誰か>の匂い。
「!?」
精々、<移り香>程度のものなので気にしなくていいと言えば気にしなくていいのだろうが、アリシアにはなぜか無視できなかった。
悠々と歩いていくナニーニの後ろをついていってしまう。
すると、やはり、ナニーニから例の<匂い>が漂ってくるのが分かる。
『どうしてナニーニから……』
とは思うものの、もうこの時点で推測はできていた。後はそれを確認するだけ。
そのためにも、尾行する。
そんなアリシアに、ナニーニが、時折、振り返る。無遠慮な<尾行者>が不愉快なのか、それとも、敢えて尾行させていて、ついてきているのを確認しているのか。けれど、逃げるでもなく、家々の隙間に入り込み、やはり悠々と歩を進める。
進行方向は、アリシアの推測を裏付けるかのように、予測の通り。
が、途中で、民家の庭に入っていってしまった。餌をもらうためだろうか。
ここまでで、約束の時間まで三十分。さすがにナニーニを待ってからだと間に合わないかもしれないので、
『仕方ありませんね。私が詮索しても意味がないでしょうし、ここまでですか』
そう考えて、コデットとの待ち合わせの場所へと足を向けたのだった。




