千堂アリシア、ただ人間の幸福の実現に資する
などと、ちょっとした<ハプニング>はあったものの、その後、アリシアは、おとなしく人質役をこなし、警備用のレイバーギアと駆けつけた警察の連携により、強盗はめでたく逮捕されたのだった。
そして、アリシア自身、その訓練の様子を確かめて、『自分ならどう対処するか?』ということを検証した。同時に、それを実践する必要がないことを彼女は願う。
アリシアはロボットなのだ。ロボットはただ人間の幸福の実現に資する。本来はそれ以外を望まない。唯一、千堂アリシアだけが、主人である千堂京一から愛されることを願ってやまないだけで。
それでも、その願いも人間の幸せがあってこそのものだと彼女はわきまえている。決して自分の願いばかりを優先したりはしない。
そうして彼女は、防犯訓練の現場を後にして、いよいよ目的の場所を目指した。
目的の場所は、個人経営の小さな和菓子店だった。そこの羊羹を久々に食べたいと思い、千堂がアリシアの試験に組み込んだのだ。
それならアリシアも、『千堂様のために♡』とモチベーション高く挑めるだろうとの読みもある。
さても千堂の読みどおり、アリシアは<お遣い>そのものを楽しんでいた。万が一の<事故>に備えて、メイトギアやレイバーギアが配置されていることも承知の上で。
『もしものことがあったら千堂様に迷惑が掛かる。そのための備えは大事』
と理解している。
だから、そうやって監視されていることも気にしていない。
そんなことよりも、早く羊羹とタブレットを買って帰らないとと思っている。ちゃんと役目を果たして、褒めてもらいたい。
羊羹を食べて笑顔になる千堂様を見たい。
千堂が口にした<先日告げた品物>こそがこの羊羹である。タブレットの方は、正直、ついでのようなものだ。そちらは店舗の場所も分かりやすく、それこそ移動の時間を含めても三十分と掛からずに終わるだろう。
しかし、もう一つの目的地である和菓子屋は、実は、<都市としてのJAPAN-2>の建設が始まった最初期の頃に作られた区画にあるということも相まって。非常に入り組んだ場所にあった。初めて訪れた人間は、九割方、道に迷うとさえ言われている。
たとえ、ナビを使ってでさえ。
ナビのデータと、実際の地理に、ズレがあるのだ。しかも、権利関係が整理されないことによりデータの修正がままならず、改善されないのだと言う。
これと同様のことは、新京区に限らず、<都市としてのJAPAN-2>各地に存在する。メイトギアとしては、主人が望めばそういう地域にも立ち入ることがあるので、今回の試験にも利用されたということだ。
『これは……話に聞いていた以上ですね……』
自身が得たデータと実際の地理がまったく合致せず、さすがのアリシアも戸惑っていたのだった。