千堂アリシア、桜井コデットを見送る
アリシアは、改めて、コデットのためにもナニーニの捜索を完遂したいと思った。
けれど、その時、
「コデット!」
不意に声を掛けられる。大人の声ではない。明らかに子供の、それもコデットと同年代のそれ。
すると、
「かほり! 結愛!」
コデットが振り返り、声を上げた。そこには、やはり彼女と同じくらいの年齢と思しき少女二人の姿。一人は、いわゆる<おかっぱ弾>でやや釣り目がちのめを真っ直ぐに正面に向けた、少々、我の強そうな印象があり、もう一人は、ニコニコと柔和な笑みを浮かべ、ふんわりと広がった、まるで作りたての綿菓子のようにも見えるプラチナブロンドの髪が目を引く少女であった。
そして、自分達の方を見たコデットに、おかっぱ頭の少女が、険しい表情で、ビシッと拳銃でも突きつけるように指を差して、
「あんた! 今日は一時にネコ公園に集合って約束でしょ!? もう二時よ! 何やってんの!?」
言われて、
「あ……っ! 忘れてた!」
コデットはハッとした表情で言った。
「忘れんな~っ!」
おかっぱ頭の少女が、拳を振り上げ、怒る。けれど、その姿はとても芝居じみていて、本気で怒っているようには見えない。アリシアが探知できる、脈拍、呼吸、体温、発汗等のバイタルサインからも、<激しい怒り>でないことは分かった。
約束を忘れたことに対する抗議として、そういうポーズを取っているだけだというのが分かる。
「てへへ、ごめ~ん」
ペロッと舌を出して頭を掻きながら、コデットは詫びた。<謝罪>と言うにはあまりにも軽いものだとはいえ、彼女達の間ではその程度で済む話だったのだろう。
「まあまあ、かほりちゃん」
綿菓子のような少女が、やはりにこにこと笑顔でなだめる。
「結愛は甘い! 激甘よ!」
『かほり』と呼ばれたおかっぱ頭の少女も、口ではそう言いながらも、やはりただのポーズであることはアリシアには一目瞭然だった。
なので、余計な口出しはせず、ただ成り行きを見守る。
と、コデットが、アリシアの方に振り向き、
「じゃあ、探偵さん、また後でね。う~ん、四時にここで」
そう告げた。
ただ、四時となれば、タイムリミットまでは一時間しかない。けれど、コデット自身の提案なので、
「はい。分かりました。四時にここですね」
異論はなかった。
おそらく、コデット自身、<牛だるま>で、昨日の時点でのナニーニの目撃情報を得られたことで、安心してしまったのだろう。なので、今日の時点ではもう発見できなくてもいいのだと思われる。
しかも、幼い子供のことなので、友達との約束さえ失念していたように、この約束自体、忘れてしまう可能性もある。
その時はまたその時に考えることとして、アリシアは、かほりや結愛と一緒に駆けていくコデットを見送ったのだった。




