桜井コデット、納得できない
『なんだ、コデットか』
営業スマイルから一瞬で素の表情に戻りつつそう言った若い店員の様子から、普段から<店員とお客>といった関係性でないことが窺える。
それこそ、<近所の顔見知り>程度の間柄なのだろう。
だからか、コデットの方もまったく無遠慮に、単刀直入に、
「ナニーニ見なかった?」
用件だけを口にした。
「ナニーニ? そういや今日は見てないな」
若い女性店員の方も、当たり前のように気にせず応える。
「昨日は来た?」
立て続けの質問にも、
「ああ、そうだな。いつもどおり猫缶、平らげてったよ。で、ナニーニがどうかしたのか?」
今度は逆に店員の方から質問してくる。それに対してコデットは、
「最近、うちの方には来てないんだ。どうしたのかな?」
と、口にする。すると店員の女性は、
「おめーんとこの餌に飽きたんじゃねえか?」
身も蓋もないことを。けれどコデットは、身を乗り出して、
「やっぱり! そう思う!?」
食い付き気味に。続けて、
「ママがね、いっつもやっすい猫缶しか出さないんだよ! だからナニーニも怒っちゃったんだ!」
そう声を上げると、店員の女性も、
「あ~、そりゃ、猫だってヘソ曲げるわ」
苦笑い。
とは言え、<地域猫>は地域全体で面倒を見ている猫なので、特定の誰かに飼育の義務があるわけじゃない。なので、自身の生活を圧迫してまで上等な餌を与える義務もないので、コデットの母親の対応にも法律上の問題があるわけじゃない。
むしろ、ナニーニがこなくなったことでホッとしている可能性もあるだろう。けれどそれを責めることもできない。
が、幼いコデットには納得いかない面もあるのも無理はないかもしれない。その辺りについては、経験を積むことで徐々に理解していってもらうしかないのかもしれないが。
などという二人のやり取りを黙って見守っていたアリシアに、店員の女性が視線を向け、
「あんた、アリシアだよな?」
声を掛けた。
するとアリシアも、
「はい」
と応える。
そこにコデットが、
「ロボット探偵さんなんだよ! 一緒にナニーニを探してくれてるんだ!」
どこか自慢げに告げた。瞬間、店員の女性も、先ほどの<秦>と同じくすぐに察したようで、
「ああ…」
声を漏らした上で、
「うちにもアリシア、いるんだぜ」
そう言った後、
「お~い、出てこいよ、由紀子」
店の奥に声を掛けた。それに応えて、
姿を表したのは、
「ま、紹介する必要もないと思うけど、<アリシア2305-HHS>だ。型落ちのポンコツだけど、うちの優秀なスタッフなんだぜ」
との紹介どおり、<アリシア2305-HHS>だった。
そう。千堂アリシアの主人である千堂京一の屋敷で彼女と共に運用されている<先輩メイトギア>と同機種である。




