だから、手を伸ばした。
手を、伸ばした。
失いたくなかったから、助けたかったから。
だから、手を伸ばした。
短く、小さい腕では、きっと届かないと、わかっていても。
伸ばさずにはいられなかった。
* * * * * * * *
「夢、か……」
天井に向かって伸ばされた手を見上げながら、布団の中で僕は呟いた。
ぼんやりと、辛い、悲しい記憶が思い出されていた。
ボスリ、と、手は力なく布団の上に落ちた。
夢。
夢を見ていた。
一年半も前の記憶が、思い出される。
その日は、雪が降っていた。
いわゆるホワイトクリスマス。
まだ夜も浅いというのにアンアンうるさい隣家から逃げるように家を出た僕は、街灯の下で雪の降る空を見上げる彼女と出会った。
「おや、白い聖夜に一人とは、寂しい方ですね」
「あんたも同じじゃないのか? どう見ても待ち合わせに使う場所じゃないだろここ」
これが最初の会話だった。
その後、僕は誘われるままに、彼女について街を回った。
彼女も何もいなかった僕にとって、それが初めてのデートだった。
それが、彼女にとって最後の夜だとも知らず、僕は彼女と遊び歩いた。
楽しい夜だった。
会って間もないとは思えないほどに、彼女とは話があった。
まるで、数年来の友達かのように、話は弾んだ。
その奇妙な事象に、僕は全く違和感を覚えなかった。
「そろそろお別れですね。今日がもう終わるし」
「ん? ああ、もうこんな時間か。夜は危ないでしょ。送ろうか?」
普段の僕であれば、絶対にしないであろう提案だった。
「いえ、大丈夫ですよ。ついては来れませんし」
「えと、どういう……?」
「私はもうここにはいられませんし」
「ますますわからないんだが? どういうことだ?」
「ふふ、今日会ったばかりだというのに、そんなに気になりますか?」
「ああ、気になるね。君にとって僕がなんでもなくても、僕にとっては初デートの相手だ」
矢継ぎ早に、僕は続けた。
「何か助けられることがあれば助けたいし、頼られれば、できる限りのことはしようと思うよ。どうせ帰ったっていつものつまらない日常が待ってるだけだ。だから」
「だから、日常から抜け出して、私と来たいって? ダメですよ。私と来れば、あなたは不幸になるだけです」
「なんで? 未来なんて、わかるはずが」
「わかるんですよ。未来」
「え?」
「あなたは、私とこの後関係を持ちます。そのあと、一緒に暮らすようになって、一年後くらいに籍を入れます。その後も普通に暮らしていきますが、半年もたたないうちに、その生活は終わります」
「ま、待って」
「私に追手が来ます。未来を見れるような存在を、放っておいてはくれませんでした。私が連れ去られるとき、あなたは必死に私を助けようとしてくれます」
「待ってくれよ」
「でも、しょせんは一人の力ですし、なんともなりはしません。あなたは、負傷して、私は連れて行かれます。だから」
「だから、あきらめろって?」
「そうです。ついてはこないでください。きっと、別の出会いがあるはずですから」
簡単に解説すると、女性は未来視によって男性との未来を見ます。ですが、そのまま進めば、互いに不幸になってしまいます。悩んだ末に、彼女は別れを選択します。
なら出会わずに済ませればよかったのでは?
そこは、出会ってみたかったのです。知っているとはいっても、しょせん見てきただけ。直接話してみたかったのでしょう。
話がやけにあったのも、未来視のおかげです。
というわけでした。
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