七話
アンシェスター家へと嫁ぐ準備が着実に進められていく中、ロンとサマンサの婚約は正式になされていた。
賠償も何もない、名ばかりの婚約破棄。そんな婚約破棄をされた令嬢であるミラは、両親から社交界に出ることを禁じられて、ただただ、アンシェスター家へと嫁ぐ準備を進めるほかなかった。
そんなミラの元には、かなりの数の手紙が毎日のように届いていたが、それをミラの両親は鼻で笑い、ミラに届けることなく、箱に詰めていた。
「お父様、お母様、お呼びですか?」
両親の私室に呼び出されたミラは、部屋の中に入ると、両親の冷たい視線に内心ため息をつきたくなった。
「座れ。」
ソファを示され、ミラは一体何を話されるのだろうかと思いながらも、ソファへと腰を下ろした。
部屋の中は静かで、時計の針が進む音すら響いて聞こえてきそうであった。
「お前の交友はかなり広いようだな。」
執事によって箱に詰められた手紙が机の上に置かれ、ミラは目を丸くした。
これだけたくさんの手紙が自分に届いていたのかと驚きながら、それを隠していた両親に苛立ちを感じてしまう。
アンシェスター家へは数日後には発つ予定である。一年間花嫁修業としてアンシェスター家で過ごしたのちに正式な結婚式を挙げる手筈になっており、細々とした準備は終わっていない。
それなのに、これだけの数の手紙に今から返事を書けるだろうかと不安になる。
だが、ザックの言葉は、ミラの思いとは違ったものであった。
「お前にはまったく呆れるな。はぁ・・・手紙を読んだが、どれもこれも酷いものだ。お前は悪くないだの、汚名を返上するべきだのと、我が家の事も知らない相手が好き勝手言ってくれるものだな。」
その言葉に、ミラは目を丸くした。
-私宛の手紙を、勝手に読んだの?
たとえ親であろうと、それは許される行為だろうか。
ミラは拳を握っていると、ザックは呆れた様子で言った。
「はぁ。そもそもお前が愚かな娘だからこそ、愚かな者達を引き寄せるのだ。」
「そうですよ。本当に、どうして貴方はいつもこうなのでしょうね。」
「愚かな・・・者達?」
ザックとマリーナは嫌悪感を露わにした表情で頷いた。
「そうだろう。お前のような娘と交流を持つ者達だ。」
「本当に浅ましい人達。サマンサの事を悪く言うなんて最低だわ。」
-そんなことはないわ。どの婦人も優しく、それでいて貴族社会という者を理解し、私を対等に扱って下さった方達ばかりなのに。
悔しさで顔が歪みそうになりながら、ミラは両親の言葉に耐えていた。
「はぁ。とにかく、ここに差出人の名前が控えてある。彼ら全員に、お前の行いは全て事実であることや妹は優秀であることを綴って返事を出しなさい。」
「え?・・・せめて手紙を読ませてはいただけませんか?」
「ならん。返事は全て中身を確認する。今日中に全てを書き終えるように。いいな。」
「今日中ですか?」
「当たり前だろう。さっさとするのだな。さぁ、要件は以上だ。」
「・・手紙は、どうなさるのです?」
箱に詰められた手紙に視線を向けると、ザックはにやりと笑って執事に指示を出す。次の瞬間、暖炉に手紙は置かれ、そこに火が放たれた。
「何を!?」
「名前は控えてある。」
-そういう問題ではないわ。皆さんが・・私の事を思って書いて下さった手紙が・・・。
轟々と炎に包まれ、手紙は燃えていく。
顔を歪めたミラを見て、ザックとマリーナは笑みを浮かべた。
「お前などへの手紙、何の意味もなさないだろう。」
「本当に、ゴミが燃えてすっきりしますわね。」
「さぁ、下がれ。もう用はない。」
ミラは、どうにか頭を下げると部屋を出た。そして、自室へと戻ると、その場に座り込んでしまった。
-悔しい。私への手紙なのに・・・。
一通すら読むことが出来なかった。自分の事を心配してくれたであろう婦人達の手紙を読む事すら許されなかったのである。
ミラは、自身の体を抱きしめて、唇を強く噛んだ。
-私の気持ちなんて・・・両親にとってはどうでもいいのね。
ミラは立ち上がると、せめて返事の手紙は心を込めて文字を綴ろうと思った。各内容がたとえ意に沿わないモノだとしても、わずかでも、自分を心配してくれた人達へ、自分の思いが伝わるように。