三話
「最近、貴方の良い噂を聞かないのだけれど、大丈夫?」
年配の伯爵夫人にそうお茶会で声を掛けられ、ミラは目を伏せて、小さくため息をついた。
「はい・・・」
ここにいるのはミラの事をよく知る婦人ばかりであり、お茶会では、皆が少し心配そうにミラの事を見つめていた。
「滅多な事は言えないけれど、貴方の妹さん、若い子達の間ではかなり人気があるようね。」
「えぇ。」
若い子達の間では。つまり、婦人達は明らかに良く思っていない。その視線は冷たく、お茶を一口飲むと次々に言葉が続いていく。
「はっきり言ってしまえば、貴方のように気品があるようには見えないし、配慮がまるでないようで・・私達も心配しているのよ。」
「若い子達の中ではいいでしょうけれど、これから幅広い年代の方々と関わっていくと思うと・・ねぇ。」
「ええ。彼女の事は何かと噂にもなっているし、私の従弟の娘も言っては悪いけれど悪影響を受けているようでね・・・。貴方も大変ねぇ。」
ミラの事を心配して声をかけてくれる婦人達であったが、サマンサの事はかなり嫌悪を感じているようで、最近のお茶会ではそれを隠そうともしなくなってきていた。
「まぁそれでも、妹さんの悪い噂ならば私達も、まぁ気にしないのだけれど、何故貴方の悪評がたっているのか、それが気になっているのよ。」
「貴方はとても優秀ですし、噂が噂だけに私達も驚いていてね。まぁ、被害が最小限で済むように私達も声を掛け合っているからそのうち消えるでしょうけれど。」
婦人達はそう言うと、ミラを伺うようにして見てから言った。
「貴方が妹をいじめているとか、貴方ばかりが酷く散財するとか・・貴方を知っていればあり得ないと分かるのだけれどね。」
婦人の言葉に、ミラは顔を上げると、優しげな表情を浮かべミラの事を心配する姿に瞳が潤んだ。
自分の母親には、このように優しげな表情で見つめられたことはない。
-分かってくれる人がいる。それだけでも、頑張れるわ。
ミラは微笑を浮かべた。
「ありがとうございます。皆様にそう言っていただけると、私、まだ頑張れますわ。」
その言葉に、婦人達は小さく息をつくと言った。
「貴方は、少し頑張りすぎなのよ。」
「そうそう。貴方の頑張りを、妹さんにさせるべきではない?」
「噂の事は気にしなくてもいいわ。とにかく、貴方はもう少し自分を大事になさいな。」
優しい言葉の数々に、ミラは胸が温かくなった。
「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です。婚約者のシェザー家のロン様もいますし、噂についてもきっとすぐに消えていくと思いますので。」
ロンの名前が出ると、婦人達の表情が一瞬曇る。だが、ただでさえ気落ちしているミラに追い打ちをかける必要はないと、誰もロンの事を言わないのであった。
この時に話を聞いていれば、ミラはもしかしたら、まだ、良かったのかもしれない。
ロンも同意するようにミラの悪い噂を口にしていたなどと、誰も言えるはずがなかった。