おまけ 1
アンシェスター家には天使と悪魔がいる。
今年五歳となるロナウド・アンシェスターとヘレン・アンシェスターは双子であり、父の名はエヴァン。母の名はミラという。
両親ともに双子を溺愛しており、大切に育てている。
そんなミラの元へ、実家であるローレン家から手紙が届いたことから、騒動は始まる。
「ミラ。そんな手紙など早く燃やしてしまえ。」
そう言うエヴァンの手をぎゅっと握りながら、ミラは困ったような微笑みを浮かべて言った。
「けれど、やっぱり私の実家だし・・・」
「君は、優しすぎるんだ。お願いだミラ。早く、燃やそう。」
「少し実家の様子を見に行くだけよ。お父様とお母様はすでに別々に屋敷を分けて、別邸で住んでいると言うし、体調を崩していると言う、サマンサに会いに行くだけ。」
ミラは実家とは絶縁状態ではあったが、妹のサマンサとだけは手紙のやり取りをしていた。そんなサマンサの手紙が途絶えてからすでに三ヶ月が過ぎている。
そしてそんな時に、ロンから手紙が届いたのだ。
サマンサが体調を崩し、思わしくないという内容が書かれており、ミラは心配になったのだ。
「様子を見に行くだけ・・ね?」
ミラのその言葉に大きくため息をつくと、エヴァンは眉間にしわを寄せながらも頷いた。
「分かった。・・けど、条件がある。」
「なぁに?」
「ロナウドとヘレンも連れて行ってくれ。」
ミラはその言葉にきょとんと首を傾げると、反対のソファに腰掛けて二人できゃっきゃと話をしているロナウドとヘレンを見つめた。
「二人を?」
「ああ。いいだろう?二人も王都にはあまり行く機会がないし、せっかくだから街を楽しんできたらいい。」
その言葉にミラはぱっと顔を明るくすると、楽しげに言った。
「そうね。私も出かけるのは久しぶりだし、ロナウドとヘレンにも新しい洋服を仕立ててもらおうかしら。そうと決まれば、少し侍女と相談してくるわ。ありがとうエヴァン。」
ミラにキスされ、エヴァンはもう一度キスしかえすと、侍女と相談しに部屋を出て行くミラを確認してから、ロナウドとヘレンに向き直った。
「ロナウド、ヘレン。」
エヴァンに名前を呼ばれた二人は姿勢を正すと、天使のように可愛らしい笑顔を父に向けた。
「僕ちゃんと話を聞いていたよ。」
「私もよ。」
エヴァンはその言葉ににっこりと笑顔を返す。
「なら、分かっているね?」
『はい!お父様。』
アンシェスター家には、天使と悪魔がいる。けれど、天使と、悪魔、別々にいるとは、限らない。




