二十話
エヴァンとミラの結婚式はアンシェスター家の領地の教会にて、盛大に開かれる事となった。ミラは自分の家族には一通の手紙を送った。
『自分はアンシェスター家の人間になるので、式には参加しなくて結構です。これまで育てて下さり、ありがとうございました。』
最初は悩んだ。しかし、自分を家族とも思っていない人達に、エヴァンとの式を邪魔されたくないと、ミラは決意したのだ。
一生の思い出となる結婚式だ。
それに一片の曇りも残したくはない。
両親から返信の手紙はなかった。その代り、サマンサからの手紙が届いた。
『結婚おめでとうございます。お幸せに。』
一言だけの妹からの手紙は、なんだかんだで嬉しかった。エヴァンは自分だったら絶縁していると呟いていたが、ミラにとっては結局、サマンサは妹に違いないのだ。
ミラのウェディングドレスは、王家御用達の店で特別に仕立ててもらったものだ。上品に仕上げられたそのドレスには、美しい刺繍が刺されている。国王陛下からは結婚祝いとしてティアラとネックレスが届き、それを今日は付けている。
「ミラ、とっても綺麗だ。」
白いタキシードを着たエヴァンの方が美しい。そんな事をミラは内心思って苦笑した。
「エヴァン様。・・これから末永くよろしくお願いします。」
「あぁ。こちらこそ。必ず幸せにする。」
式はつつがなく進行していたのだが、サプライズで変装した国王陛下が登場した時にはミラもエヴァンも驚いた。
二人の結婚式は、国王陛下が参加されたという事で話題になり、辺境の悪魔、美しき天使によって幸福を得たなどという見出しで新聞にも載ったらしい。
国王陛下が結婚式に参加したとの知らせを受けて、ミラの両親はすぐにアンシェスター領へと向かったが、招待されていない者はいかなる者でも参加出来るはずはなく、門前払いをくらった。
「私はミラの父親だぞ!」
「母親を結婚式に参加させないなんてどういうことなの!?」
門番はその言葉に、事前に主にもしも両親を名乗る者が現れた時には伝えるようにと言い使った言葉をのべる。
「親と言うものは子どもの幸せを願うもの。式に呼ばれなかったということは、それが子の願い。叶えてあげてはいかがか。」
両親はその言葉にも憤慨するが、結局式に参加することも、泊まる場所を確保することも出来ずに出戻ることとなった。
その後の社交界にて国王に一言、『娘の結婚式にも参列してやらないとは、非道な親もいたものだな。』との言葉をもらう。
ローレン家は国王に見放されたと見なされ、社交界で今、爪弾きにされている。
「くそぉー。何で我が家がこんなめに!」
「貴方が悪いのよ!もう、ちゃんとしてくださらないと困るわ!」
「なんだと!!!」
ちなみにロン・シェザーは実家から見切りをつけられたらしく早々に家から追い出され、今はローレン家で過ごしているらしい。サマンサの尻にすでに敷かれているらしく、嘆く姿をたびたび舞踏会で目撃されているとか。
「はぁ・・こんなことになるなんてな。俺は結局・・何をしてもだめなのか。」
「しっかりしてくださいませ。ロン様。」
サマンサとロンはそれぞれ公爵家を継ぐという事で勉学に励んでいるらしいが、中々勉強は芳しくないようでローレン公爵は頭を抱えている。そして今まで何だかんだ妻との間を取り持ってくれていたミラがいなくなったことで夫婦仲も悪化中。
そんなローレン家の内情を、たまにサマンサがミラへと手紙で知らせてくる。
『今になってお姉様のありがたみをひしひしと感じます。私達は、お姉様がいなければ何も出来ない、出来損ないの集まりみたいだわ。でも、私はこのままでは終わらないわ。絶対に、公爵家を守り立てて見せるわ。』
そんな手紙が届いた時、ミラは部屋の中で噴き出して笑った。
そして結婚から数か月、ミラは毛糸で小さな小さな帽子を編んでいる。
「ミラ。ただいま。」
ミラの額にキスをしたエヴァンは、ミラのお腹に向かって声をかける。
「ただいま。今日もおりこうさんにしていたか?」
戦場の悪魔と天使の間に産まれる子は、悪魔か天使か。そんな話が今、アンシェスター領では話題になっている。
おしまい