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十六話

執務室へと抱きかかえられたまま連れて行かれたミラは、執務室へとたどり着くと備え付けの一人掛け用のソファへと下された。


 エヴァンは侍女らを下がらせて、騎士達に差し入れしに行くように伝えると、自らお茶を入れ、ミラへと差し出した。


「すみません。お茶まで用意していただいて・・」


 申し訳なさそうに言うミラに、エヴァンは苦笑を浮かべると言った。


「いつも自分で煎れているので、かまいませんよ。それより、今日は急でしたね?」


「え?えぇ。」


「でもどうして練習場の見学など?見てもつまらないのでは?」


 素直な疑問としてエヴァンは口にしたのだが、その言葉に、ミラの顔色がどんどんと悪くなっていく。何故だろうかと内心慌てていると、ミラが、意を決したように口を開いた。


「わ、私!その・・・別に他の男性騎士様を見ようとかそういうことではありません。エヴァン様を・・エヴァン様のお姿を見たかっただけで・・結婚する身で、他の方に言い寄るような・・女では・・・ないです。」


 勢いよく口を開いたミラではあったが、最後の方はしりすぼみになっていく。


 エヴァンはその言葉を聞いて、ふむ、と紅茶を一口飲むと、立ち上がり、ミラの前へと跪いてその手を取った。


「エヴァン様?・・その・・信じて下さい。」


 ミラの瞳をじっと見つめ、エヴァンはにっこりと笑みを浮かべた。


「心外です。」


「え?」


 きょとんとするミラにエヴァンは言った。


「貴方の噂は耳にしています。悪女だとか、人をたぶらかすとか、様々ですね。」


 知らないわけがないと、ミラは悲しくなり目を伏せる。


「・・はい。」


「噂は本当ですか?」


 ミラはその声に、ハッと顔を上げてエヴァンを見つめた。エヴァンは真っ直ぐにミラを見つめていた。


 握られた手は温かく、ミラは唇を噛むと首を横に振った。


「・・いいえ。」


「そうでしょうね。貴方はそんな人ではない。一緒に過ごせば、貴方がそんな人ではない事はすぐにわかる。」


 ミラの心臓は、トクトクと音をたて、手が震える。


 エヴァンはそんなミラを真っ直ぐに見つめたまま、はっきりと言った。


「私は、自分の目で見た物を信じます。ミラ嬢は真っ直ぐで純粋なご令嬢だ。・・男は狼だってことすら知らない人が悪女な訳がないでしょう?」


 表情を緩め、くすりと笑うエヴァンに、ミラは心臓の音がどんどんと早まっていくのを感じた。


「私は貴方を信じます。ですから、貴方も私を信じて下さい。私が噂に惑わされるほどの男ではないと。」


 その言葉に、ミラは静かに頷いた。


 エヴァンはそれに満足したように頷き返すと、ミラの為にお菓子を準備し、一緒にティータイムを過ごす。そして別れ際、エヴァンはふと思いついたように言った。


「ミラ嬢・・いえ、ミラと呼んでもいいですか?」


「え?あ・・はい。」


「私の事もエヴァンと呼んでください。後、次にこちらに来る時には必ず最初に私の所に来て下さい。もし私がいない場合にはこの執務室で待って居て下さいね。悪い虫がつくといけませんから。」


「・・今度は虫ですか?その・・狼に・・虫に・・なんのたとえなのでしょう?不勉強で申し訳ないのですが、教えていただけますか?」


 ミラの言葉に、エヴァンはにっこりとほほ笑むと言った。


「純粋なミラは知らなくていいですよ。さぁ送っていけないのが申し訳ないですが、気を付けて帰って下さいね。」


「はい。」


 馬車まで見送られ、ミラは馬車の中で揺られながら窓の外をぼうっと見つめた。


 -ここに来られて本当に良かった。エヴァン様は、いえ、エヴァンはとても・・優しいし・・・。


 頭の中でエヴァンと呼び捨てで呼んでみると、顔が熱くなってくる。


 -恥ずかしいわ。この感情は何かしら。ロンの事を呼び捨てにしてもどうってことなかったのに。不思議。それにエヴァン・・は、私を信じてくれると言ったわ。ふふふ。それが、とても嬉しい。


 帰りの馬車の中で百面相のように表情をコロコロと変えるミラの姿を見て、侍女達は二人がうまくいっている事に内心拍手喝さいを送るのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 甘やかしいの親に甘やかされた馬鹿が自滅して、みっちり厳しくされた子が幸せになっていくストーリーは、途中と言いますか。 過程と言いますか。 ざまぁの時は特に、酷くツラく読みつつ苦しいですが。 …
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