十三話
ミラは馬車がアンシェスター家へと到着すると、大きく呼吸を整えてから馬車を下りた。
馬車の扉が開くと、そこは住んでいた場所よりも少し気温が高いのか暑く感じ、太陽の光も容赦なく地上を照らしている。
「ようこそ。アンシェスター領へ。」
声が駆けられ、視線を向けると、そこには美しい男性がミラに手を差し伸べていた。すらりとした体に、爽やかな印象のその男性に、ミラは一瞬思考が止まる。
男性はぎこちないながらも、どうにか笑みを浮かべるとミラに言った。
「エヴァン・アンシェスターです。ミラ・ローレン嬢。お初にお目にかかります。迎えに行けず、申し訳ありませんでした。」
その言葉にミラははっとすると、慌ててエヴァンの手を取って馬車から降りると、美しく一礼をした。
「挨拶が遅くなり申し訳ありません。ミラ・ローレンです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」
エヴァンはミラの様子にほっとした様子でエスコートをすると、屋敷の中へと促してくれた。
執事や使用人らも一堂に集まっており、ミラが屋敷へと入ると皆が頭を下げた。
「後程執事達の紹介はしましょう。まずは、こちらへ。」
「はい。」
エヴァンに促されるままにミラは屋敷の客間へと案内された。
調度品は見事な物ばかりであり、武骨な印象はあるものの、その歴史を感じさせた。
ミラは、ソファへと促され座り、ちらりとエヴァンに視線を向けた。
-綺麗な人。・・・本当にこの人が、戦場の悪魔と言われるエヴァン・アンシェスター様なの?噂とは本当にあてにならないものね。
王都ではエヴァンの噂は戦場の悪魔だとか、血に飢えた魔物だとか、恐ろしい印象のものばかりであったが、いざ本人を目の前にしてミラは驚いていてしまう。
そんなミラの様子に、エヴァンはぎこちない笑みを浮かべて口を開いた。
「結婚式の準備までしばらくかかりそうですが、辛くなったり、困ったことがあったらすぐに言って下さい。出来る限りのことはしますから。」
「え?」
「ん?」
ミラは思わず今の言葉に小首をかしげてしまった。
その様子に、エヴァンは眉間にしわを寄せて思った。
-もしや私が、花嫁をも喰らう恐ろしい悪魔だとか、そんな噂があるんだろうか。予想以上に美しい人で正直驚いているが・・・もしかして、もうすでに帰りたい?
ミラは優しい言葉に、正直胸がいっぱいになった。
-気遣って下さるの?私を?・・・初めて会った、私の事を?
二人の間に、静かに、沈黙が流れる。
その様子を、ちらちらと周りにいる使用人やレンは内心そのぎこちないやり取りにじりじりとした気持ちを抱いていた。
-もっと喋って下さいエヴァン様!
-ミラ様、美しい女性だわ。エヴァン様にぴったりじゃない!
ーあぁ。じりじりするわ。早くお二人が仲良くなって下さるといいけれど。
二人はその後もぎこちないやり取りを繰り返し、そして使用人らはもんもんとするのであった。