お稲荷さん、テン狐盛り
「ほっほ……全く人間は愚かしいのぉ」
神社の鳥居の上にその少女は座って、嘲笑する。
僕ら人間を睥睨するように、細い瞳は上弦の弧を描いていた。
「今はお前もその人間の使い魔同然なんだから、分を弁えろよ?」
僕は鳥居を見上げ、少女に声を掛ける。
ぴくり、と苛立ったように豊かに生えた尻尾を逆立て、やがてゆらゆらと揺らし始めた。
「口の利き方に気を付けい、小童。妾を誰じゃと思うとる」
「この神社の守り神様、だろ? 稲荷神社の守り神、といえば……」
そう、お稲荷様、という奴だ。
「はん、分かっておるのではないか。ならば妾に敬意を」
「あ、そういえば今日の夕飯って油揚げだったん」
「ごめんごめんごめん妾が悪かったから許して? 油揚げはちゃんと妾の分も残してお願いします!!」
僕が暗に『今日の夕飯』を取引材料として持ち掛けると、守り神様はそれまでの高飛車で威厳ある態度は何処へやら、あっという間にただの子供の如く涙目になり、油揚げを求めて懇願してきた。
「うーんどうしよっかなー? これからの『仕事』をちゃんと手伝ってくれないと、僕も確約しかねるなあ」
「分かったから! ちゃんと手伝うから!!」
「……オッケー、その言葉、忘れんなよ」
僕は守り神様、いや、今はただの使い魔と化したその狐娘に、念を押した。
そして。
「行くぞ、テン」
「だから略しすぎじゃっちゅうのに。せめて天狐と呼ばんか! この無礼者め」
僕達は、この街の悪霊退治に出かける。
◆◆◆
「ねえ、お狐様って信じる?」
ことの起こりはおおよそ1週間前だった。
僕は幼馴染みの大上千歳からそんな話をされた。
屋上でいつものように千歳と飯を食っていると、突然そんなオカルト紛いの話を向けられて僕は困惑する。
「お狐様? それって、稲荷神社とかのアレか?」
僕は信じる信じない以前にまず定義をハッキリさせたくて、うろ覚えの知識で尋ねてみる。
「そうそう。明、ちゃんと知ってるじゃない。そのお狐様」
「うーん」
僕は思案した。
「そもそも……お狐様に限らず、僕はあんまり神様とか幽霊とか、オカルト的な存在を信じないんだよね」
僕は正直な気持ちを吐露した。
「そうなんだ。まあ、信心深いとか、霊感が強いって感じじゃないよね、明は」
そう。この僕、高校2年生の下平明は、オカルトを信じない。
目に見えないもの、触れられないもの、存在が不確かで科学的証明のなされないもの。そういったものに、憧憬もなければ畏敬もない。
「でもどうしてそんな話を訊くんだよ。一体何だって急に」
僕は千歳の物凄く突然な質問に、違和感を覚えていた。
「それがねえ……出たらしいの。お狐様。神社に」
「何、その使い古された怪談話の導入みたいな語り口」
僕は苦笑して茶々を入れつつ、それでも一応、千歳の語りを聴き続ける。
「あたしも又聞きで詳しくは知らないんだけど、なんかね、子供みたいな格好だったんだって。ちっちゃな女の子」
「女の子ぉ? 神様が?」
僕は胡乱げな目をして疑る。しかし千歳は事もなげに答えた。
「まぁ、でもそういう姿を稲荷神社の神様が取るのも、ある種のステロタイプじゃない? よくあるよくある、定番だよ。巫女姿の可愛い狐っ娘! とかね」
……そういうものなのかな?
僕はオカルト系の定番なんて知らないので、ふーん、って感じで頷いておく。
「でね、その狐娘ちゃんが」
「おい、急に威厳を感じさせない表現になったな。なんだよ狐娘って」
「まあまあ、良いじゃない。その狐娘ちゃんがね……夜な夜な、神社の境内で踊っているんだって」
小さな狐の女の子が、神社の境内で踊っている? そりゃまた、シュールな光景だ。
「何で踊ってんだろな」
「さぁ。でも神社で踊りと言えば、御神楽じゃないの?」
あぁ、神様に奉納するとかなんとかいう。
「って、一瞬納得しかけたけど、なんで神様本人が自分に奉る踊りを踊るんだ? 随分適当な噂だな」
「言われてみれば、そうね」
まあ、神様が自作自演で自分の存在に対して崇め奉るというのも、世知辛い話だが信仰を喪いつつある現代社会じゃ必須の儀式なのかもな、なんて僕は思いながら牛乳パックをちゅー、と吸った。
「そんな訳で、はい」
「あん?」
はい、と言われても……なんだこれ、ビデオカメラ?
「撮ってきて。今夜、神社で」
「はぁ!? なんで僕が」
千歳に渡された、今時動画を撮るならスマホで良いだろと思わせる古風なハンディカメラの重みを感じながら反駁した。
だが千歳は僕の弱みにつけ込んでくる。
「ええー、じゃあテストのヤマ教えてあげない」
「かしこまりました、千歳様。仰せのままに」
僕は手のひらを180度回転させると、今夜、稲荷神社に向かう事に決定してしまったのである。
くそう、成績とヤマカンは良いんだよな、千歳……。
◆◆◆
「つっても、マジで出たらどうしよっかね。大人しく撮られてくれんのかな」
僕は半信半疑で神社の境内にいた。
時刻は夜23時過ぎ。
放蕩息子の夜間外出に両親はさほど気にした様子もなく、僕はハンディカメラを手に、境内を彷徨く。
「うーっ寒。9月だってのに、なんか急に冷えてきたな……」
僕は薄着で来た事にやや後悔しつつ、身を竦ませた。
やがて時計の時刻が23時15分を過ぎる頃。
それは、現れた。
境内の中ほど、いわゆる参道という部分に、ボンヤリと青い炎が浮かび上がり……やがてそれは、人の形を取り始めた。
僕はポカーンとしていた。
霊感も何もない僕が、マジのオカルト現象を目にしている事実にまず忘我し、そしてその目の前の存在の……神々しさに目を奪われた。
身の丈130センチほど、大きくフワフワしていそうな狐の尻尾に可愛らしい狐耳が頭から生え、薄茶色のサラリとした髪は長く腰ほどまである。
整った顔は小学生ほどの背丈の女の子にしては随分大人びた表情をたたえており、釣り上がった目の端にはうっすら朱に染めているように見える。
衣装は恐らく、白装束という奴だと思う。そこにゆったりとした羽織を被せていて、子供の体には随分と大きいサイズだなと思わせるブカブカっぷりが、妙に庇護欲をそそられる感じだった。
「……マジで出た」
僕はハンディカメラを構える事も忘れて、目の前に現れた狐娘が踊っている姿に魅入ってしまっていた。
「おんや?」
すると僕の独り言に気付いたのか、狐娘は振り返る。
「何じゃ、人間の小童ではないか。妾の舞踊を覗きに来たのかえ?」
古風な言い回しでその娘は僕に語りかけてきた。
あ、そうだ、カメラ……と僕は電源をオンにして撮り始める。
「あ、お構いなく。そのまま踊ってて下さい」
僕はそう声を掛けるが、狐娘は呆れたように言った。
「……ちっとは驚かぬのか? 最近の小童は張り合いがないのぉ」
「いや、めちゃくちゃ驚いてますけど、僕ってあんまりそういうの信じてなかったんで、気持ちが追いついてこないっつうか」
狐娘と普通に会話している自分にも驚きだ。まだ気が動転しているのかも知れない。
「妾の艶姿を撮られるのは吝かではないが……お主、ここへ何をしに来たのじゃ?」
狐娘は質問する。
「えーと、まあ噂を聞きつけてあなたを撮りに来ただけなんですけどね」
「噂じゃと?」
僕は説明する。
「はー、なるほどな。妾がこの神社の境内で踊っておるのを人間が見咎め、噂にしておるのか。いやはや、物見高いものじゃのぉ」
別に僕は物見遊山のつもりで来たんじゃなく、幼馴染みの言いつけで撮りにきただけなんだけどな……と思ったが、人間の幼馴染みの力関係など、神様に話したところで理解できまい。
益体のない考えを振り払い、僕はただ踊り続ける彼女を撮るべくカメラを回し続けた。
「小童、名は何と申す」
と、踊りながらも狐娘が話しかけてくるので僕は答える。
「下平。下平明です」
「アキラ、の。覚えやすい名じゃの」
結構よく言われるんだよね、それ。神様基準でも覚えやすいか。
あれ、そういえば彼女の名前は何て言うんだろう。
僕は何となく思って尋ねてみた。
「神の名を問うか。妾を前に臆さぬその態度といい、中々に不遜な奴じゃの、小童」
いや、だって見た目完全に小学生だしなあ。
僕は心の中でだけそう思う。
「妾の神名はやや長いでの。そうじゃの……稲荷大明神天狐、と呼ぶが良い」
彼女は答えるが僕は舌を噛みそうなその名前に顔を顰めて尋ねる。
「十分長いっす。テンでいい?」
「短くしすぎじゃろ。無礼じゃの」
とは言いつつ、まぁええわい、と鷹揚な態度を見せるのは流石、神様といったところだろうか?
それから僕はテンが踊り続け、やがて日付が変わるまで彼女の姿をビデオカメラに収めるのだった。
◆◆◆
翌日。
「はい、撮ってきたよ。千歳」
「マジで!? 見せて見せて!」
おおー、と千歳は驚く。
「こ、こんなに鮮明に映るもんなんだ……神様って」
「僕も驚いたけど」
ガッツリとビデオカメラにそのお姿を映されても特に気分を害した様子もなく、テンはずっと気分よく踊っていた。
そもそも、何で踊ってるの?と訊いたら、特に理由などないわい、と言っていたが……。
「ってか、会話もちゃんと残ってるし。凄いわね、初対面の神様とこんなちゃんと交流しちゃうなんて。あんた、霊媒師の才能があるんじゃない?」
「バカ言うなよ。霊感なんてこの年齢になるまで一度も感じたことないのに」
千歳の発言を僕は馬鹿馬鹿しい、と斬って捨てるが、よくよく考えれば変な話だよな。
霊感もないのに神様をこんなに鮮明に観ることができて。
しかも、ビデオカメラに映せて、会話まで録音できるなんて。
「神様って、よく知らんけど霊体とかそういうモノなんじゃないの?」
「そうよ。本来は目にも見えず、ただ人間のお側にいて下さるものだったり、概念としてだけ存在していたり、社に奉られていたり―――そう、だからこのテンちゃん?って神様も、本来なら姿を見る事なんて出来ないはずなんだけどね」
千歳は割とオカルトかぶれなところがあるので僕のふわふわした理解とは異なり、神様の存在については一家言あるようだった。
「じゃあ、どうして……」
「考えられるのは、神様が現世に降り立って、肉体……なのかどうかは分からないけど、人の目に見える肉を纏ってまで何かを為したい、という事なんじゃないかしら」
「それが境内での御神楽だっていうの? 冗談キツいぜ」
僕は呆れる。えらく楽しそうに踊っているもんだから水を差すのも憚られたが、踊りたいというだけでその神格を貶めるような子供の姿になって現世に降り立つものだろうか?
「何か、他に理由があるのかも知れないわね」
千歳は意味深に呟くが、多分テンは何も考えていない。
「ま、その辺の事情も訊けたらまた訊くよ。どうせまた会いに行く度、踊り狂ってるだろうし」
僕はそんな風に気軽に言って次に会うタイミングをどうしようか、などと考えていた。
それが、軽率だったと知るのは3日後の事である。
◆◆◆
僕がテンと出会って3日後。再び来訪した神社にて。
「な……なんだこりゃ」
「おおう、小童ではないか。何じゃ、今日は『びでおかめら』は持ってきておらんのかえ?」
僕が目の前にした光景は、およそ想像を絶していた。
ビデオカメラの代わりに、折角神様に会うのだし、とコンビニで買ってきて持参した稲荷寿司のパックを、動揺のあまり手落としてしまった。
―――そこには、形容しがたい泥のようななにかに飲み込まれつつある、テンがいたのだった。
「ほっほ……しくじったわい。妾の舞でこやつを引き寄せ、浄化しようとしておったのじゃがな。長年の信仰の衰退が、まさかこの町を守ることすら出来ぬ程度に成り下がるとは……そのくせ悪霊は蔓延るんじゃから、ままならんのぉ……」
悪霊。を引き寄せ、浄化。
僕の頭の中で、テンの発言とこれまでの行動がやっと噛み合ってきた。
つまり、彼女は文字通り、この神社……いや、町の守り神として、悪霊を退治していた……ということなのか。
「小童! 早う逃げい!! お主まで巻き込まれるぞ!!」
健気にもテンは、自分が悪霊に飲み込まれそうになりながら、僕を逃がすつもりらしい。
僕は一瞬、言う通りに逃げようとして、それから。
「……馬鹿言ってんじゃねえよ、神様。あんたが居なくなったら、誰がこの神社を、ひいてはこの町を守るってんだ」
「……小童?」
僕はガタガタと足を震わせながらも、衝動に駆られて、言い募る。
「第一! そんな弱っちい姿でバケモンに襲われてんの見せられて! 助けないわけ、ないだろ!!」
ダッと走り出す。
何が出来るかなんて考えなかった。
とにかくテンをその場から救い出す、それだけを考えていたように思う。
「馬鹿者!!」
ビシュッ!
悪霊が物理実体を持つなんて思っても見なかった。
テンに纏わりついている泥が、まるで触手のように長く伸び、僕を捕らえる。
「ぐぁっ……!」
ふ、フツーに滅茶苦茶強い力で縛り上げられてるみたいな感じだ。
こんなのってアリかよ。
僕はどこか冷静な頭が沸騰するのを感じた。
「ええい、なんという愚かな……!」
テンは苦々しげに顔を顰める。
もう後の祭りだ。
それでも僕は抵抗しようとした。
「テンを……離せよ、悪霊野郎……!」
僕は腕と胴回りを縛られているので自由の利く足で悪霊を蹴り飛ばすが、全くこたえない。
「ちくしょう……」
無力感に苛まれる僕に、テンは語りかけた。
「小童……こうなればやむを得ん。妾の力、ひとつ残らずお主に託す。イチかバチかじゃ、この場を切り抜けてみせい」
彼女は縋るような眼で僕を見て……僅かに泥の隙間から出した、小さな手を、ぺち、と僕の頭に触れた。
その瞬間だった。
「…………!!?」
僕の身体が熱く燃え上がる。今にも爆発してしまいそうな程に、心臓の鼓動が早まる。
「な、に、を……」
僕は薄れゆく意識の中、テンの言葉を耳にした。
「言ったであろう。妾の残された神通力、全てお主に託す……とな」
次に目が覚めた瞬間には、僕の身体を縛り上げていた触手も、テンを今にも吸収しそうな泥も、僕はまとめて吹き飛ばしていた。
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
無意識に身体の奥底から猛る咆哮。
僕の手のひらからは、冗談みたいな閃光が悪霊共に降り注ぎ、その端から消滅していく。
「どうやら……予想以上に、上手くいったようじゃ……の」
顔を青くして、ぐらりとテンは僕に倒れ掛かる。
「おい! テン!!」
僕はテンの容態を確認する。意識は失っているが、息はしている……いや、神様が自分の力を人間に渡したんだぞ、人間の物差しで測るんじゃない。
僕はそこではっと気づく。
「そうだ、稲荷寿司……!」
お供えだ。
僕は先ほど動揺で取り落としたパックの稲荷寿司を手早く開き、ぐったりと意識を失っているテンの前に捧げ、柏手を打つ。
二礼二拍手一礼、だったか?
細かい作法は置いとく。
「テン、これ食って元気にならねえか!?」
僕がそう言って祈るように彼女を見つめていると。
「んお!? 油揚げ、いやさ助六ではないか!! 良いものをお供えしてくれたのう、褒めて遣わす!!」
と、急に元気になった。
「…………あ?」
僕はポカーンとなった。
さっきまでの死にそうな様子はどうしたよ。
「いやぁ最高じゃの、油揚げ単体でも美味しいのじゃが、この油揚げと酢飯のハーモニーが」
「いやいやおい、ちょっと待ちなさい君」
僕はテンに尋ねる。
「なんでそんな急に元気になるんだよ、おかしいだろ」
テンは事も無げに答えた。
「人間の肉体の構造と同じにするでないわ。妾は本来、霊体じゃぞ。この肉体は、現世に留まるための肉の塊に過ぎん、いわゆる依り代じゃな」
と、千歳が言うようなオカルト用語を交えつつ稲荷寿司をパクつく。
「じゃ、じゃあもう大丈夫なのか?」
「うむ、おなかいっぱいじゃ!」
あっという間に稲荷寿司を平らげ、腹をぽんぽんと叩くテン。
「いやそっちじゃねえよ、身体!!」
「ああ、もう大丈夫じゃ。霊力はほぼ全部、お主にやってもうたから、その意味では大丈夫ではないがな」
と。
サラッと何を言うのだ。
「れ、霊……力?」
「さっきも言ったが、妾の神通力をお主にほぼ全て注いでもうた。妾の今の力は、使い魔程度に落ち込んでおる」
霊感なんてカケラもなかった僕が、そういえば悪霊を打ち倒したように見えたが、アレはテンの神通力とやらを僕が受け取った結果だというのか。
「お主、霊感がないというより封印されとった感じじゃの。妾に出会って、それがこじ開けられたんじゃなかろうかの?」
何だかよく分からんが。
ともかく、僕の日常はこの日を境に、一変してしまったようだった。
◆◆◆
時間は現在に戻る。
「ったく、狐耳の使い魔をバディにして悪霊退治なんて、いつの時代の伝奇バトルだよ」
僕はこの町に蔓延る悪霊共を浄化しながら、ぶつくさと呟く。
「グチグチと五月蠅いのぉ。そもそも、妾を見捨てておけば良かったじゃろうに」
「あの状況で、んな事できるわけないだろ」
テンが揶揄するが、僕は即座に切り返す。
やれやれと肩を竦め、テンは苦笑する。
「ま、妾の信仰が正しく戻り、神通力を取り戻すまでの我慢じゃよ。20年もありゃ、何とかなろう」
「20年かそこらで戻るのかね? 信仰、衰退する可能性すらあるんじゃね?」
僕はそう言うが、テンは反論した。
「さてなぁ。人心が乱れる時こそ信仰は栄えるものじゃしな。かように疫病の蔓延するこの現代において、神社の信仰が廃れる一方になるとは、妾は思わんがの」
中々の皮肉を利かせたテンの言葉に、僕は嫌な顔をした。
「けっ、まるで人の不幸で我が身が潤うみたいな言い方だぜ」
「否定はせんが、不幸や苦難こそ信仰の生まれる源泉とも言えようよ。それは人間の業じゃろ、業」
くっくっと笑い、テンは僕を遣り込める。
まぁ、ぐうの音も出ない正論だね、そりゃあ。
「まー平和ならそれに越したことはないんじゃがな。妾としても、20年も小童……明を付き合わせるのは心苦しいでの」
珍しく殊勝な事を言うテンに僕は戸惑う。
「じゃ、すぐに解放してくれりゃあ良いのに」
僕は心にもない事を言ってみる。テンは笑う。
「そいつはお断りじゃな。まだまだお稲荷さんは食べ足りん」
「今夜もてんこ盛りで食わせてやるから、そこは心配すんな」
僕らはこんな調子で、今日も悪霊退治に励む。
いつか、テンの神通力―――即ち、神社に信仰が戻るまで。
ども0024です。
連載に飽きてきて短編ばっか書いてる気がしますね。
本作は『のじゃロリ狐娘』と『伝奇バトル』なんていうコッテコテの90年代~00年代アニメ風味でお届けしております。
いやもう、ある種古典だよねこういう題材。
どうしても僕の好きな時代の作風が如実に表れるなー、って感じです。
今時の読者のお口に合うかどうかは分かりませんが、楽しんでもらえれば幸い。