え!? 3つ子!?
「また会おうね、サーくん」
「うん。また会お……」
目を覚ますと朝だった。窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。
「なんだ夢か……」
最近昔引っ越しした幼馴染みの夢をよく見る。その子はとても可愛くて、僕は彼女の事が好きだった。
(初恋を未だに引っ張っているとは。かなり拗らせているな……)
僕は吉野聡、学年トップの成績で模試でも全国10位以内に入っている。そのお陰で、
「吉野、また勉強してるよ」
「あいつ本当に陰キャだよなっ」
そう、学校での僕は根暗気味なのだ。しかし彼らは僕のとっておきの秘密を知らない。それは……、
「聡君来たー」
「遅いよー」
僕がアイドルや、若手女優の家庭教師をしているのだ。うちの親が芸能関係で働いており、そのコネで子供の頃からテレビ局に見学で来ていた。そこでアイドルや子役達と仲良くなった。僕が子供の頃から勉強が出来たので、それから彼女達に休憩の合間に勉強を教えるようになったのだ。
「相変わらず聡君って、教えるの上手いよねー」
「本当に助かるわっ」
「分からないことあったらいつでも連絡してよ」
「うん、分かったー」
そう僕は今や50人以上のアイドルや若手女優達の連絡先を知っている。そして今日は彼女達に勉強を少しだけ教えて早々に帰った。それには訳があって新たな若手女優の家庭教師になったのだ。名は『綾野美優』、今売りだし中で、最近よくドラマ、映画、バラエティ番組によく出ていているから、周りからよく体力持つねと言われるそうだ。噂で彼女はロボットじゃないかと言われている。そしてその彼女は夢にまで見た僕の昔の幼馴染みに顔がそっくりなのだ。名前は違うが、もしかしたらと思い承諾した。
あと彼女のマネージャーから、秘密にしたいことがあるって言ってたな。何だろうか? そして彼女の住むマンションに着いた。
「ここか……」
流石は売りだし中の女優、そこは高層マンションだった。
「1025室か」
そしてマンションの中に入り、エントランスのオートロックで部屋に声をかけると、
「はい」
「あの家庭教師の吉野ですけど」
「あ! はい、今開けますねっ」
そして二枚目の自動ドアが開き中に入った。1025室まで行きインターホンを鳴らすと、ドアが開いた。
「あ、吉野君ですね。お待ちしてました」
「あ、はい……」
敬語かぁ。何か距離感があるな。覚えてないのかな?
「あの本名って『神林美優』ですか?」
そして彼女は驚きと困惑の表情を浮かべた。
「確かに私共の苗字は神林ですが、美優なんてのはいません」
「そうですか……」
落胆しながら部屋の中を彼女と歩いているとと奥の方から女子の叫び声が聞こえる。
(他にも誰か来ているのかな?)
誰だろうと気になって見てみると僕は驚いた。彼女によく似た顔が2人いるのだ。
「え!?」
(一体どういうことだ!? なんで彼女にそっくりな顔が他にも居るんだ!? それに制服もバラバラだし……)
「一体これは……」
「私達3つ子なんです」
「え!? じゃあ」
「そうです。私達は3人で一人の『綾野美優』という女優を演じているんです」
「ということは秘密と言うのは……」
「私達が3つ子ということです」
「成る程……」
(これが世間にばれたらかっこうのネタだな)
「それで貴方にはこの秘密を守って頂く為に契約書を書いてもらいます」
「え? 契約書?」
「はい」
「なんで?」
「秘密を守ってもらうためです」
「はぁ」
そして仕方なくサインした。そしたら玄関からずっと案内している彼女がしゃっとその紙を取り、はい。確かにと言って別の部屋に行った。
「で、なんでこの男なのよ!?」
「え? 良いじゃん。別に芸能界に精通しているそうなんだし」
「もっとイケメンが来ると思っていた。なのに何この陰キャは!? 勘弁して欲しいわ!」
昔の幼馴染みにそっくりな顔で罵倒されるのはかなり辛いな……。
「あのえーと、嫌なら僕は別に……」
「あら、契約書の内容ちゃんと読んでないの?」
「え?」
「私達の秘密を保持する為に私達専属の家庭教師になったのよ」
「え?」
「それと暫くはここに泊まって学校に登校してもらうから」
「えーー! 何で!? ここから学校まで遠い」
「それは貴方を信用に足る人物か知るためよ」
「だからイケメン家庭教師が良かったのに……」
まじか……。これは少ししんどいな。契約書ちゃんと読むべきだった……。
「親にはまだちゃんと……」
「ここに来て貰う時にマネージャーから伝えて了承を得てます」
(親父達め……)
そして渋々僕専用の部屋に行ってしばらくくつろいだ。
(漫画くらい持って来たい……)
そう思いドアの方に行くと、カサッと何かを踏んだ。下を見ると紙だった。内容は、
『久しぶりサーくん、立派になったわね、見違えちゃった。家庭教師宜しくね♡ 神林美優』
僕はビックリしてドアを開けたが、そこには誰もいなかった。その手紙を握りしめながら思った。
(僕のこと覚えてくれている幼馴染みがおそらくあの三人の中にいるはずだ。やはり僕の見立ては間違ってはいなかった。なぜかは分からないが彼女は『幼馴染み』と名乗らないみたいだ。なら僕が彼女のことを見つけないと!)
そう固く決意をし、彼女達の家庭教師になることを決めた。
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