スタートダッシュ
穏やかな風が人々の頬を撫でる。
俺は猛烈なスピードでその真っ只中を突っ切る。
巷を行く人々をかき分けたりはしない。
肩で風を切るということもない。
街路ではいつもと変わらぬ日常の光景が見られる。
果物を計り売りする声、魚介類の生臭さ。
石畳の感触を足裏に感じながら
俺は道筋に並ぶ人間模様を眺める。
栄養補給がてら露店から菓子をつまみ食いすることだってできる。
だがそれはやめておこう、あまりに行儀が悪すぎるし数スピルダの待ち合わせもないと疑われるのも癪だ。
住人たちが風圧で煩わされることもないし
無論、俺自身も空気から抵抗を受けることはない。
何故なら俺が進む場所はここであってここでないからだ。
次元路、魔力によって構築された異次元の通路。俺の体にはその通路に適応するための別種の魔術が用いられている。
一般人は俺の姿は見えないし、この次元路に気づくこともない。衝突事故だって起こさない。
次元路と外の世界では、時間の進み方が違う。
外ではいつも通り時間が流れている。
俺のいる次元路ではもっとゆっくりと時間が流れる。
次元路の中にいる人間が、散歩みたいなペースで歩いたとしても、外では猛スピードで疾走したようにその結果が現れる。
もし外の人間とぶつかっても安心だ。その時は歩いている人間同士が体を触れた程度にしか感じないだろう。
今、何をしようとしてるのかは置いておく。
名前だけは名乗っておこう。
俺の名前はウィリアム・ウォークフィールド。
俺はひた走る、今日も昨日も、明日も、今も!