日常危うし
「鮫洲 橘花君。エロゲー作りましょ、一緒に」
「は?」
「エロゲーよ、エロゲー! エロいゲーム!! しかも妹物の!」
「ハァァ!?」
オタクとしてこの道歩んで、早10年。
17歳になった俺は、王道ラブコメでありそうな夕日を背に、放課後の教室で――――
女子から性癖暴露+意味不明な依頼を受けていた。
意味が分からない―――。
え、何まずなんだって? 妹物のエロゲー? へ…………?
「何あなた、もしかしてエロゲー知らないの?」
「いや、いやいや、知ってる。 知ってるけど……え? なに、どういうこと?」
「あ、もしかしてR18を気にしてるの? そんなの大丈夫よ、エロいところは都合のいい霧に隠してもらえば――――」
「ちげーよ、馬鹿」
思わず、頭を抱える。
多分こいつは、日本語をしゃべっているのだろうが、どうも俺は理解できない。
確かに、俺はオタクだ。
オタクだし、どうしようもない奴だけど――――でも、それでも
「せめてさ、時と場所くらいわきまえてくんね? 視線、すごいんだけど」
放課後とはいえ、まだ残っている連中もいる。
そいつらの視線は、現在俺たちに集まりつつあった。
「それこそ、はぁ?よ。 いつもラブコメライトノベルを表紙全開で呼んでるあなたに言われたくないわよ」
「―――――確かに、そうだな」
なぜだろうか、こうやって変態が堂々と変なことを言っても俺は微塵も間違いだとは思わない。
むしろ、正論とさえ思ってしまい、納得した。
よく考えれば、ラブコメライトノベルと妹物エロゲーという性癖丸出しな言葉を同類語として、とら得てもいいのか。
いや、だが、ライトノベルの表紙も一般の人から見れば、なかなかのものだしな…………そういわれれば確かに―――。
でも、妹物ラブコメよりかは性癖爆弾でもないだろうよ。
うん、そうだ。 そうだな。
結論間違ってるのは俺じゃない。変態女の方だ。
だが、どちらにしろ場所を変えないとできそうにない話だしな…………。
「せめて、場所変えていいか?」
「えぇ、もちろん。 そうね、それじゃあ―――」
結論、俺たちは教室を移動し現在、帰路についている。
どうやら、方向は同じらしい。
俺は、こいつの存在を今日まで知らなかったが、どうやらこいつは俺のことを通学の時などに、数度見かけているらしい。
「で、何がどうなって俺が変態とエロゲーを創る話になったんだ?」
「ふふん、私…………知ってるのよ?」
もちろん開口一番は、この質問をするつもりだった。
あのままでは、混乱だらけだしな。
だが、思わせぶりなことを切り出されさらに俺は、混乱の淵へと落とされる。
「…………な、何を?」
「あなたの、ひ・み・つ」
秘密。 秘密とは何ぞや。
いや、言葉の意味じゃない。 秘密の内容だ。
ふと、首を傾げるが…………いや、思いつかん。
俺は、他人が引く程の…………まぁ、ある程度は自粛しているが、8割型オープン系のオタクだ。
むろん隠れるつもりも、隠れているつもりもない。
学校だって、別に好きな人もいるわけでも…………
「あなた、イラスト――――上げてるでしょ、某サイトで」
「へぁッ!?」
「ふふふ、図星のようね」
にやりと、美女の顔が歪む。
まずい…………これは、非常にまずい。
「いいの? あなたのイラスト…………もし断ったら悲しみのあまり黒板に張り付けそうだわ」
「んんッ!? ど、どどどどんな悲しみ方だよッ」
「悲しみは悲しみよ、そりゃ、あなただって好きな人に拒絶されたらいやでしょ?」
「――――好きな、人ッ!?」
俺は、思わずしり込みをする。
この言い方、文面。 流れ的に、もしかしてこいつは俺のことを―――――。
「あ、私が好きなのは絵描きとしてのあなただけであって、あなた個人はそうでもないわ。 ごめんね、勘違いさせちゃって」
「うるせぇ、バァァァカ!! 勘違いも何もしとらんわッ!」
頬が急激に熱を持ち始めるのを感じる。
まったく、こいつ…………ドSかッ。
すると、変態は自身のまない――――失礼、胸部にトンッと手を当て、ドヤ顔を決める。
「ま、私ほどの”美”少女から、そういうことを言われれば勘違いするのは当たり前ね!」
「くっそ、何が美少女だ……」
確かに美少女だ。
艶やかな黒髪に整っている顔。 かわいいし、綺麗だと思う。
だが、なんだかそれを認めるとこいつは厄介な奴になりそうなので、認めたくない。
あと個人的に、気に食わないから。
「…………話を戻すけど、弱みを握られているのはわかった……だ、だがッ俺にメリットがない!」
「メリット……ふむ、確かに」
「少なからず俺にもメリットがあれば……考えなくもない」
「ふーん、じゃメリットがあれば協力してくれるのね?」
「い、いや考えなくもないだけで―――」
その時だった。
彼女は、顔をぐいっと俺に近づけ、目と目を無理やり合わせる。
「協力………………してくれるわよねっ?」
「はい…………」
完敗だ。 こいつには、何があっても俺は勝つことが出来ない。
ここまでくれば、メリットが何だろうと、俺はこいつに協力―――いや、下僕として使い魔として馬車馬のように働かされるだろう。
「じゃ、私このまま真っすぐだから……明日までにはメリットを考えておいてあげるわ」
「…………期待しないで待っておくよ」
「ふふん、期待しすぎて怖いのかしら? それとも天邪鬼?」
「ちげーよ、早く帰れ 変態」
「なっ! っていうか、さっきから何よ、馬鹿の一つ覚えみたいに変態って連呼して」
まさか、私にそういうことを想像しているの? と、彼女はドン引きだと言わんばかりに、距離を開ける。
「違うって、俺、あんたの名前知らないもん」
「え? ええええええッ!? しら、知らないッってホント!? 馬鹿なの!?」
「逆に知ってもらってるって思ってるお前が馬鹿なのかよ」
「まったく、しょ――――――っがないっわね!」
「東葉 雅…………それが、私の名前よッ!」
この時の俺は他人から見たらどうしようもなく、変人に見えただろう。
それほど開いた口が閉じないんだ。
だって、その名前は――――
現在、過去に――――いや、現在も日本で人気を誇っているエロゲーを作成したその人物だったからだ。