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シアの赤い空  作者: 光政
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7.-入学式-

 「ついに来たね--- 緊張する」


 試験の時に一度来てはいるものの、明後日から学園生活が始まると思うと期待もあるがやはり緊張の方が上回る。


「さあ、入寮の手続きに行きますよ」


 院長の後に続いて門を通ったが、立派な校舎を目にして足が震える。マリの手を強く握りしめながらセバスやカイの後ろを歩いた。


 このセシリア学園は、君主であるジルベート王の曽祖母によって創立されたらしい。属性がある平民が入学出来るようになってからはまだ日が浅いという。


 属性がなくても優秀な平民が学べる教育機関を、ジルベート王が新たな政策として進めているようだがまだ形にはなっていないと聞いた。


 学園の一日の流れとして、午前中は学科/教養を課に関係なく同じ学年として学び、午後から各課毎に分かれ専門的な内容を学ぶ。三年目からは完全に課毎で分かれ徹底して勉強するようだ。


 入学前試験の結果によってクラス分けがされるのだが、明日校舎の入り口に結果が貼り出される予定になっている。


 校舎、寮の他に図書館や食堂、上位貴族専用のサロンが並んで建てられていて、全て白い壁で統一されていた。


 寮の玄関に入り寮を管理する優しげな寮母からの説明を聞くと、寮は四階建ての作りになっていて、私達平民は執事・侍女課の方達と共に二階までの部屋が割り当てられるそうだ。


  玄関を真ん中にして男女分かれて生活するようで、二階と四階にある食堂と広間では交流が可能らしい。


 地下に洗濯場と広めの浴場があると聞いて、嬉しさから私とマリは興奮してしまう。タリジアではアパートの一階に住人が使える浴場があった為、ある程度自由にお風呂へ入る事が出来たのだ。孤児院では月に一度と決められていて、濡らしたタオルで体を拭く日の方が多く最初はとても辛かった。


 院長に今までの礼と挨拶し荷物を片付けた後、広間に集まる約束をしてから部屋へと向かう。


「綺麗だね、良かったマリと同じ部屋で」


 案内された一階の奥にある部屋は、二段ベッドとニ個の机が並べられているだけの小さい部屋。窓からは太陽の光が差し込んでいて明るく、とても居心地が良さそうだ。


「清掃もされてるようだし、小さい部屋だけどシアと二人だから安心したわ。早く荷物を片付けてカイ達に会いに行きましょう。二人が心配だわ」


 マリが手際よく荷物を解いていくので、慌てて自分の荷物に手をつける。持ってきた荷物は少ないが、新しい部屋にドキドキしてしまい中々手が進まなかった。


 ------


 片付けが終わりマリとニ階にある広間へと向かい恐る恐る立派な扉を開ける。ソファとテーブルがいくつか見えたが、ソファに座っていた人達が私達へ顔を向けたので中をゆっくり見る事など出来ない。


 見られている視線に緊張しつつ、カイとセバスの姿を探せば端のソファに二人が座っていた。


「シア、遅かったな。荷物は片付いたか?」


 セバスが横を開けてくれたので、セバスの横に腰を下ろす。


「うん、ごめんね、ちょっと遅かったよね」


「大丈夫、シアの事だから遅いとは思ったていた。部屋はどうだった?」


「うっ---- ごめん。小さい部屋だったけど居心地が良さそうな部屋だった。マリと二人だったよ、セバス達はどうだったの?」


「そうか、それなら安心だな。俺達も同じ部屋だったけど、四人部屋だったよ。一人は同じ平民で、もう一人が執事課と聞いて心配だったが上手くやれそうだ」


 良かったわね、とマリはホッとした表情でカイの手を握り、私も安心しながら小さく息を吐く。


 執事課には貴族だが爵位が貰えない子息が入る事も稀にある為、同室の場合上手くやれない可能性があるのだ。


「俺達は大丈夫。マリ達は学園長が配慮してくれたのかもしれないな。二人部屋は数が少ないだろうし、とりあえず安心した。明日試験結果を見に行くだろ?  朝食を食べたら玄関に集合して一緒に行こう」


「そうね、そうしましょう。何だか安心したら眠くなってきたわ。カイ、今日の夕食は部屋で食べるわね、人が多くて疲れそうだし---- シアもそれでいい?」


 私が頷くと二人にお休みと言ってマリがソファを立つ。私も疲れていたし早くベッドに入りたかった。


 部屋に着くと、マリがふーっと息を吐く。あまり見ないマリの姿に心配になる。


「マリ大丈夫? 疲れた?」


「そうね、広間の視線に疲れたわ。シアは大丈夫?」


「私も緊張して疲れた。皆様子を見てる感じだったね」


「慣れるまではちょっと疲れそうね。今日は早く寝ましょう?」


 お風呂に興奮していた私達だったけど、疲れたのもあって今日はやめる事にした。食堂から、部屋に持ち帰れるパンとスープだけ貰い部屋の机で食べる。マリと明日の結果について話し、電気を消して早めに布団へ入った。


 ------


 朝、玄関でカイ達と合流して試験結果が貼り出されている校舎の入り口へ向かう。図書館を通り過ぎると、既に沢山の人が試験結果を見に来ていた。


 クラスはS.A.B.Eに分けられる。


 Sが一番上の成績優秀者クラス。Eクラスに入ってしまうと、学年が上がる度に試験を受けなくてはならない。院長からの説明によれば、その試験に受からないと退学になってしまうようだ。


 試験結果を見る為、人垣の後ろに立って順番を待つ。前を見ていれば赤いワンピースを着た綺麗な子が、金色の髪をした男の子へ声をかけていた。


「第二王子のシュバルト殿下だ。赤の服を着ているのは多分侯爵家の令嬢だろう。婚約者候補の内の一人だ」


 セバスは小声で私達に教えてくれる。


「同じ歳だったんだね」


「あぁ、一般課だと思うが、午前はクラスが同じ可能性もあるからな、シア気をつけろよ」


 セバスは分かる範囲で、見える貴族の説明を私達にしていく。皆綺麗な人達ばかりで、髪の色や服でしか見分けがつかない。


 シュバルト殿下がいなくなり、前にいた人達も徐々に去っていったので、結果が見える位置に移動しEから順に確認していく。


「あぁ、良かった。シアはAクラスだ。マリとカイも同じだな」


 Aクラスに視線を動かし自分の名前を探せば無事に書かれていた。マリとカイも近くに書かれていたが、セバスの名前だけ見つからない。


 もしかしてと思い、Sクラスを見たらセバスの名前が上から二番目に書かれていた。


 私が驚いていると、セバスに背中を叩かれる。

 

「俺は頭が良いからな」


 Sクラスだけ試験結果の順位順に名前が書かれるとは聞いていたけど、まさか二番だなんて----


「さすが、セバスだわ。クラスは違うけどセバスなら大丈夫ね」


「そうだな、俺はマリと同じで良かった。午前中だけでも一緒にいれるから安心だ。とりあえずここから離れようか」


 カイがマリを連れて歩き出したので、私とセバスも後に続いてその場を離れた。そのままの足で入学式の会場場所を確認しに行く。


 校舎を歩き、食堂に辿り着いたので早めのお昼を食べる事にした。寮とは違い、テラスがあるからか明るく開放的な食堂はとても素敵だ。


 平民は国からの援助で学校に通う為、無料で食べられるメニューに限りはあるものの十分な種類が揃えられている。


 満足しながらご飯を食べ終え、マリとデザートを食べるか悩んでいると、他の生徒達が食堂に入り始めたので席を立つ。


 そそくさと寮に戻り、明日から着る制服の確認がてら試着をしてみたら、半年前には余裕があった胸元がピッタリに感じる。マリは私の胸をジーっと見て、シアはスタイルも良いのねっと呟いていた。


 マリは少しふっくらしているが、私から見ればマリの方が柔らかそうで女性らしく感じられる。髪は柔らかそうだし、背も小さくて可愛い。


 マリは侍女課で着るエプロンとワンピースを、私は騎士課の訓練で使う防具とパンツスタイルの服を確認していった。夕食をカイ達と食べるとお風呂へマリと向かう。


 貴族は部屋に備えられたお風呂に入るようで、浴場に人はおらず安心してお湯に浸かる事が出来た。お風呂場の中は広く、丸い形の浴槽にニ人共体を伸ばして久しぶりのお風呂を満喫する。


  部屋に戻ると、明日の入学式に向けて風邪を引かないよう直ぐに電気を消して布団に入った。


 目を瞑ると、夕食時にセバスから色々と気をつけるよう言われたのを思い出す。


 ---- 皆に迷惑はかけられない。明日から気を引き締めて頑張らなくちゃ。


 マリの寝息が聞こえてきて、ふとマーサの顔が頭に浮かんできた。あれから五年。時間は思ったよりも早く過ぎて、今の自分を見てマーサはどう思うだろうと考える。マーサの目から見ても誇れるような自分になりたい。


「マーサ、私もう13歳になるの。学園に入るんだよ」


 シアの小さい呟きは誰に聞かれるわけでもなく、暗闇に溶けていった。


 -----



 制服に腕を通し、髪を一本にまとめてからマリと玄関に向かう。セバス達と合流して入学式が行われる会場へ足を踏み入れた。


 初めて会場の中へ入り、壁一面にピンクや黄色、白といった色とりどりの花が飾られ、会場の華やかな気配に圧倒される。貴族達とは少し距離をおいて、四人で壁際にかたまりながら入学式が始まるのを待った。


 貴族達は制服を各自アレンジしているのか、私達の制服とはまるで違う。素敵にリボンを付けていたり、フリルが足されているのが分かる。平民との差を見せつけるかのように、可愛いらしい制服を着て華々しく笑っていた。


 入学式が始まる間際、シュバルト殿下が護衛と共に会場に入り、歓声と小さな悲鳴が飛び交う。


 シュバルト殿下の制服は、王族の家紋が背中に刺繍されており、胸元には白いバラが飾られていた。立ち振る舞いも素晴らしくて、金の色がサラッと揺れている。


 シュバルト殿下が会場の前の方に着くと、音が鳴り響き入学式が始まった。


「入学おめでとうございます。この良き日を皆で祝いましょう」


 学園長が壇上に上がり、挨拶をすれば入学生全員で頭を下げる。次に壇上に上がる人をその姿勢で待つのだが、胸がドキドキしてきて煩い。


 次は王妃様が話しをさせる筈、どんな人なんだろう---- 前を見たい気持ちを押し殺し床に視線を送り続けた。


「面を上げなさい」


 鈴が鳴るような声が耳に届き、更に胸が音を立てる。顔を上げると、黒い髪に透き通った緑の瞳をした綺麗な女性が、シックな色のドレスを着て立っていた。


「私の名はジェーナ・ダリア・サリーシャ。学園生活が貴方達にとって有意義なものであるよう、支援をしていきます。楽しみながら成長なさい」


 品のある笑みを浮かべて、微笑む正妃様の美しさは唯美しいだけじゃない。凛とした格好良さが垣間見え、素晴らし過ぎて目が離せなかった。


「正妃様はガバスから来られた方だ。だから髪も黒く、瞳の色も金色じゃない」


「そうだね、でも凄く素敵な人、憧れる」


 ---- あの人の髪も黒色だけど、ガバス国や正妃様と関係あるのかな---- 今どこに居るんだろう。早く会ってお礼が言いたい。


 セバスと小声で話しながらも、壇上の上から目を離さず正妃様の姿を見続けた。


 正妃様の挨拶が終わり、試験結果で一位だったシュバルト殿下が新入生代表として壇上に上がる。挨拶と宣誓を行って無事に入学式が終わり、私達の学園生活が始まった。


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