5.-魔力測定-後半
「--- Прачніся」
ゾワッと髪が逆立つような感覚がしたあと、胸の奥底に温かい光を感じる。
それはどこか懐かしくて--- 包まれた温かさに目から一筋の涙が流れた。
胸にあった光は血液のように体を巡り、生を保つ為の熱や五臓の存在が確かなものであると気付く。生きている喜びを感じながら温かさに身を委ねていると、自分のではない誰かの熱が頭の上にあるのが分かった。
「Адпусціце」
巡っていた光は輝くように弾き、先程よりも強い光が全身を包む。とても居心地が良く、いつまでもこの温かい光の中にいたい。
先程の目とは違う目からまた一筋の涙が零れた。
手首の方へ光と温かさが流れていくのを感じてゆっくりと目を開く。私を微笑みながら見つめる神官様と、驚いた様に口を開く院長の姿が目に映った。
何が起きたのか分からず皆へ視線を向けると、皆も目を見開いて私を見ている。
---- どうしたんだろう。
よく分からず首を傾げたまま神官様へ視線を戻す。神官様に何があったのか、聞いても良いのだろうか?
「おめでとうございます。 属性が開放されました。あなたの属性は光の属性になります」
---- 光?
右の手を石から離し掌を上へ向けてみると、手首に金色の♢印が目に映った。
「あなたの測定は終わりです。お疲れ様でした。他の三人は魔力を感じられましたか? 感じたなら石に魔力を注いで下さい」
----- まだ皆終わってなかったの?
自分だけが解放された事を知り、私は皆の方へ体を向けて手を握り合わせながら祈る。
マリやカイと離れたくないの---- 目や手にギュッと力を入れながらも、不安で体が震えだす。
お願い----。
----- どうか、お願い ----。
----。
「------- あっ」
皆の手の中から淡い光が見えたとたん、体から力が抜けて立っていられなくなった。床にお尻をつけたまま涙を流す。
目に映る皆の顔は歪んでしまい、どんな表情で石を見ているのか分からなかった。
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「これで終了になります。皆さんお疲れ様でした。今後の人生に幸多いことを---- 学園生活頑張って下さいね」
「「ありがとうございます」」
皆の属性も無事に確認され、退室すべく再びお辞儀をする。
「院長殿すみません。光の属性の子だけ残して頂けますか? 」
「分かりました。シアは残るように。三人は一度部屋へ戻っていなさい」
私だけ? どうして---- もしかすると腕輪?
先ほどまで温かかった指先がどんどん冷たくなっていく。
「シア---」
マリの顔を見れば青ざめていたので、すぐさまカイに視線を向けて付き添ってもらうよう目で訴える。
「大丈夫。 終わったらすぐマリの所へ行くから。カイ宜しくね」
カイは私に頷きながら、マリの肩を抱いて部屋から出て行った。セバスは私の肩を軽く叩いて何も言わないまま退室していく。
「不安にならずとも大丈夫ですよ、さあ座りなさい」
神官様に促され、院長が頷くのを確認してからソファへ腰を下ろした。緊張から腕輪を強く掴んでしまう---- 何を話されるんだろうか。
無言のまま顔を強張らせてしまう。私の心情を察しているのか、神官様は柔らかな表情で口を開いた。
「もう一度、印を見せて貰えますか?」
---- 印? 腕輪じゃないの?
少しだけ安堵しながら神官様の言葉に頷いて印を見せるよう右手を前に出す。私の印をじっと見ていた神官様は小さい息を吐いた。
「やはり--- あなたはニ属性持ちですね。魔力もかなり高いようです」
「----- ニ属性?」
「そうです。ここ数年、王族以外に確認されていないので驚きました。 説明しましょう、 ダイヤ型を囲む丸い線がありますね? これは光属性の中に他の属性が隠れている事を表しています。条件がありますから、いつ開放されるか分かりませんが属性の力をニつ持っています」
「おうぞく--- それに条件--- ですか?」
自分の手首を顔に近づけて印を見つめる。確かにダイヤ型を囲むように丸い線が見えた。
印の形は属性によって異なり、
火= 三角型、水= 雫型、風= 渦巻型、
光= ダイヤ型、 精霊= 羽型、
であると院長からは聞かされている。
二属性なんて知らない。一体どういう事なのだろうか。
「どんな条件かは人によって異なります。なので開放されてみないと、どの属性かも分かりません。君主であるジルベート王は、火と風の属性をお持ちです。開放条件は結婚だったようですよ。亡くなってしまいましたが、王の従兄弟であった元公爵様も精霊と風の属性をお持ちだったようです。開放条件は残念ながら分かっていません」
「君主様ですか? 条件が人によって違うのは理解しましたが---- どうして私が? 今はという事は、昔は王族の方以外にもいたのでしょうか?」
「はい---- 昔は近親婚が多く血が濃かったのです。上位貴族にも二属性持ちがいたと文献に書かれていました。生まれもつものですから、貴女がニ属性である理由は私には分かりません。その印を見て、上位貴族であれば貴女が二属性持ちであると気付かれる可能性が高いでしょう。唯孤児である貴女がニ属性持ちだと色々と困る事があるかと思われます。今後何かあれば、私の所に相談に来なさい。学園長には配慮するよう伝えておきます」
「------- はい、宜しくお願いします」
ニ属性持ちだと知られれば珍しくて確かに騒がれる可能性がある。
ただでさえ髪と瞳の色を隠しているのに、注目されては困るのだ。自分の事なのに分からない事ばかりで嫌になる。
マーサは何故私の色を隠したかったの?
取り敢えず隠し通すのは難しいかもしれないけど、あまり人に印を見せないよう気をつけなくちゃ。
「院長殿も宜しいですね? ニ属性持ちというのは皆に伝えないようお願いします。名前はシアでしたね? 伝え忘れましたが、私の名はエルン。覚えていなさい、良いですね?」
私が頷くと神官様は立ち上がり、お付きの方を連れて静かに部屋を出て行った。
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「シア! 大丈夫だった? 話はなんだったの?」
院長と話した後、直ぐに来客室を出て皆を探す。廊下を抜けて広間に行くと、マリが私に気付いて立ち上がった。
「心配かけてごめんね? 私の印が珍しいみたいで説明を受けてたの。腕輪じゃなかったから安心して」
神官様から説明された内容を、出来るだけ詳しく皆へ伝える。
「あまり言わない方が良いみたいなんだけど、皆の事信頼してるから言うね。他の人には内緒にして。お願い」
「そうだな、言わない方が良いだろう。今日いらした神官様は王族だろうから、信頼出来るしな」
「セバス、なんで神官様が王族だって分かるの? 」
マリの言葉にカイも同じく思ったのか、真剣な目でセバスを見ている。私も神官様が何故王族だと分かるのか気になり喉をならした。
「マリ達は知らないのか。サリーシャ王国の王族は特殊なんだ。どういう仕組みかは分からないが、王族の血筋は髪と瞳が金色で生まれる。神官様の髪と瞳は金色だっただろう? だから王族だと分かったんだ」
セバスは頭を強くかきながら、息を大きく吐く。
「お前たちタリジアにいたもんな。シア、そしてカイ達も知っていてほしい。ニ属性持ちが広がると、きっと貴族から養子縁組の話が出て、シアを家に取り込もうとする奴が出てくるだろう。だから神官様はお前を心配して、名前を伝えてまで相談してくるよう話したんだと思う。あと、前に見せてもらったシアの髪と瞳の色、調べたけどまだ分からないままだ。何か意味があるのなら孤児である俺たちでは対処出来ない。シアはもちろん気をつけるべきだけど、俺たちも絶対人に言わないよう気をつけなくちゃならないんだよ」
「そうね---- 学園に入れば孤児院よりも人がいるし、貴族が殆どなのよね。今のままだと心配だし不安でしかないわね。セバス、学園に入るまでに色々と教えて貰いたいんだけど---- お願い出来る?」
「セバス、俺からもお願いしたい。頼む」
マリとカイの気持ちが嬉しい。でも---
「マリ、カイごめん。でも良いの? 二人には迷惑ばかりかけてる」
「昨日話したでしょう? 一緒にいるって。皆で学園に行けるんだし。サリーシャ王国を知る事は、私にとっても必要なのよ?」
「シア、マリの言う通りだ。気になるならマリの側にちゃんといてやれ、いない方がマリが気にして泣くからな」
ありがとう、小さく言葉にして二人に近づき抱きしめる。
これから先、自分で対処出来るようしっかりしなくちゃいけない。
今は迷惑かけてるけど、これから少しずつでも感謝の気持ちを返して、二人には絶対に幸せになってもらおうと決めた。
「じゃあ、明日から講義をしていくからそのつもりでいてくれ。シア、二人よりお前が一番把握しないと危ないからな、ちゃんとノート用意してこいよ。分かるまで何度も言うから、な?」
マリとカイから離れて、セバスの手を取りながら頭を下げる。
「ありがとう--- 明日からお願い」
セバスは返事の変わりとでもいうように私の頭を少し乱暴に撫でたので、髪がぐちゃぐちゃになってしまう。三人の優しい気持ちに心が温かくなり、冷たくなっていた指先は温かさを取り戻していった。
その後、院長から学園への入学に向けて詳しく説明される。セバスとカイが風、マリは水の属性だったようで、それぞれの属性を考慮して学園の試験を受けるよう伝えられた。
学園には、一般課、騎士課、執事・侍女課があり、試験の成績によってクラスが分けられるようだ。
出来るだけ早く決めて試験勉強をするよう院長に言われていると、マザーが夕食の時間だと私達を呼びに来た。
食堂に行き、院長から四人とも属性の印が現れたと皆に伝えられる。院長の言葉が終わった瞬間、孤児院の年下の子達から歓声が上がった。
マザー達からは抱きしめられ、孤児院ではあまり食べられないお菓子が皆へ配られてく。私達も久しぶりの甘いお菓子に喜びながら、美味しく頂いた。
------- 皆一緒で良かった。
二日後、カイと私が騎士課、マリは侍女課で、セバスは一般課を希望すると院長に報告する。
カイに、マリと一緒じゃなくていいの? と聞いたら、騎士のが稼げるから気にするなと言われた。カイの笑った顔の奥にある複雑な気持ちに気付いたが、それ以上は追求せずカイの選択を唯受け入れる。
入学前試験まで後十ヶ月。
昼は各自で試験に向けた勉強を行い、夜はサリーシャ王国についてセバスから講義を受けていく。
疲れた時には皆で小さい丘へ行き、寝転びながら青い空や夕日を見て学園について話した。
不安や緊張はあるが、自分の将来の為頑張らなくてはならない。学園での生活が自分達にとって自立する為の第一歩だからだ。
今までは孤児院にいるマザーや院長に守られてきた。だけど誰かに守られながら生きていける訳じゃない。
------ 頑張らないと。皆にこれ以上は迷惑をかけちゃ駄目。皆を安心させる為にも、私に出来る事は全部やらなきゃ。
自分の成長を感じながら、皆と過ごす充実した時間は瞬く間に流れていった。