4.-魔力測定-前半
朝の朝食を食べ終えると、神官様が来る前に掃除をする為マリと二人で来客室へと向かった。
孤児院で十二歳になるのは私達とセバスを入れて四人。年下の子達の方が興奮しているのを感じながら、二年前の自分を思い出す。
二年前、魔力測定を受けた二人のうち、一人だけが属性の解放にいたったと夕食時に院長が喜びながら皆に伝えた。
その時の魔力測定を受けた二人の様子を見ていて、私達も同じ結果にならなかったらと思いだすとだんだん悲しくなり、その日の夜はマリと一緒に寝てもらったのを覚えている。
来客室に入り、ソファやテーブルなど私達が使っているのとはまるで違う高価な調度品に恐縮しつつ、傷をつけないよう丁寧に拭いていく。
国が管理しているのもあって、王族や城からの使者をもてなせるようこの部屋だけは凝った作りになっているのだ。揃えられたティーセットや、飾られているインテリアを見ていれば作りの精巧さに見惚れてつい手を止めてしまう。
「ねぇ、シア? 」
マリに突然声をかけられ慌てて止まっていた手を動かした。
「手止まってたね、ごめん」
「-------- 」
マリの返事がないので、どうしたんだろうと思いマリへと視線を動かす。
「どうしたの? 不安?」
マリの顔を見ると、珍しく眉を下げており不安そうな表情で私を見てきた。
「シア、今日は絶対に腕輪を落としたり、取ったりしちゃダメよ? 」
「え? いきなりどうしたの? 」
「大丈夫だとは思ってるんだけど、マーサさんから言われた事があって---- 今日は神官様が来るでしょう?」
「マーサ? マリ、マーサから何か聞いているの? 」
マーサの名前が出てきて驚く。マリは何を聞いていたのだろう? 今まで教えてくれなかったのに、何故今になって伝えようとしているのか分からない。
マリは小さい頃から一緒にいたから、何か知っている可能性は確かにある。マリが返事をしないので、早く聞きたい気持ちを抑えてマリの手を優しく掴んだ。
「ねえ、マリ。私の知らない事ならちゃんと知りたいの。話してくれない?」
マリは目を瞑って小さく息を吐く。目をゆっくりと開けたマリは真剣な顔で口を開いた。
「髪と瞳の色を変える意味の答えではないけど、マーサさんは前に私に言ったの。もしマーサさんが亡くなることがあれば、シアをあの街から出さず守ってほしいって」
「どういうこと? 街からでてはいけないって------」
「---- ごめん、それは私にも分からない。ただあの街は、国境壁の近くだったから色んな人がいたでしょう? 隣の国の商人も必ず通っていたし---- サリーシャ国に来てから思ったのよ。だからシアをあの街で育てたのかなって---」
あの街には、確かに色んな髪や瞳の色を持つ人が沢山いた。襲撃してきたターダ国の他に、ガバス連合王国の1つであるデリ国ともタリジア国は隣接していて、国境壁に近いあの街は常に隣国から多くの人が訪れていた。
商人や旅人などを見かけると、肌の色が違ったりあまり見ない瞳の色を持つ人はそれなりにいて、本来の色である白金色は浮かずにすんだのだ。
サリーシャ王国はあの街とは違って、茶と赤の髪と瞳の色が多く稀に緑や青といった瞳の色を見かけるぐらい。白金の色で歩けばかなり目立つだろうと容易に想像出来た。
「シアの色がどんな意味を持つのかは分からないけど---- お願い。約束して?」
「---- うん、分かった。マーサとも約束したし外れないよう気をつけるね」
心にモヤモヤを残りながらも、時間がない為マリの目を見て約束をした。
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掃除が終わり、昼食を食べてから前日に院長から渡された服に着替える。神官様と会う為、私達に新品の服が揃えられたのだ。
マリと私はシンプルな白のワンピース、カイとセバスは白のシャツに黒いパンツを着用し神官様が来られるまで院長室にて待機する。
カイとセバスはいつもより髪を後ろに撫でつけていているからか、カイの茶の髪からは誠実さ、セバスの赤い髪からは意志の強さを感じられて二人が大人ぽく見えた。マリはカイの姿を見て、顔を赤くし頬に片手を添えて恥ずかしそうにしている。
今日来られる神官様は、王都の中心にある城の敷地内に建てられた神殿にいる方らしく、神官様の中でも位が高い人だと院長から説明された。
属性の解放が出来る神官様は点在してる神殿の中でも10人ほどしかいないという。今回、4人もの魔力測定を行う為に、本殿にいる位の高い神官様が来る事になったと聞かされた。
魔力測定では、まず神官様から石を渡され両手で石を包むよう持たされる。魔力の感覚が分かるように、神官様から最初に言葉を貰い魔力の流れを理解してから石に魔力を流す。
魔力が基準値を超えると、石が光る仕組みになっているようで、光が確認されると神官様から再び言葉を貰い属性が解放されるそうだ。
一連の流れが説明されると、院長が一旦席を外すと言って扉から出ていかれた。
「シア、今の説明きちんと聞いてたか? 理解出来てるか不安だな」
セバスは向かい合った席にいて、背もたれから身を乗り出し顔を近づけてきた。セバスはいつもの表情で私を見つめてくる。
「聞いてたよ。 大丈夫だから安心して」
「そうか、なんだかぼー っとしてたように見えたからな。俺は心配なんだ」
セバスの目は明らかに私を疑っていた。
「さすがにシアも聞いてたわよ、ね?」
マリの言葉に思いっきり首を縦に振る。
マリが助けてくれたが、セバスは訝しげにじーっと私の目を見つめてくるので、小言が始まらないよう話を変える。
「ねえ、セバスは解放されたらどうするの? やっぱり頭がいいから文官?」
セバスは小さく溜息を貰した。
「話し変えるなよ、まあ今日は許してやる。そうだな、文官も悪くないけど解放されてから考えるよ。特に目標があるわけじゃないしな」
「セバスは頭がいいから解放されると良いわね、もったいないもの。マザー達もそう言ってるわ」
マリの意見に同意する。セバスはかなり頭が良く、法や歴史について書かれた難しい本でさえも淡々と読んでしまう。一度セバスが読めるならと試してみたが私には難しくて無理だった。
それからカイがセバスをからかうように頭の良さを褒め始めたので、話が変わった事にホッと胸を撫で下ろす。
皆で三十分程話していると、院長が戻ってきて神官様が到着されたと告げる。院長から促され立ち上がると、マリが不穏な表情を向けてきたので、安心させるようマリの手を取った。二人で手を繋ぎながら、院長の後をセバスとカイに続き歩いていく。
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「失礼します」
来客室の扉を開けて院長が中へ入っていったので、緊張から目線を下げたまま部屋へと足を踏み入れた。
「「今日はよろしくお願いします」」
皆で声を揃えて神官様へお辞儀をしながら挨拶をする。
「はい、こちらこそ。顔をお上げなさい」
気持ちを引き締めながら顔を上げると、そこには見たこともない美しい人がいた。
髪は腰より長く一本にまとめられ、鼻はすっきりと高く、目は二重だが切れ長でミステリアスな雰囲気を作りだしている。肌は白く透きとおっており中性的な感じが更に美しくさせているようだ。そして何より--- 髪と瞳の色が金色であった。
マーサも美しい人ではあったが、もはや種類が違う。人ではなく神だと言われても納得できるほど、神官の真っ白なローブがより芸術的な姿を際立たせていた。
「貴方達のこれからの活躍を期待しています。それでは魔力測定を行いましょう」
神官様は私達の前で立ち止まり、真っ白な綺麗な手から黒い石を一人ずつ渡していく。院長に言われた通り石を受け取ると、両手で優しく包みこんだ。
横を向けば三人共真剣な表情で手にのせた石をみている。
私は煩くなった胸の音を抑えるように、目を閉じて神官様の言葉が聞こえてくるのを待った。
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