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 二人は、また沈黙した。

 叶は、一度、思わずその視線を女の子からそらして一瞬だけ斜め上の緑の森の風景を見たが、(女の子も、視線を地面の上に向けたようだった)それからまたすぐに、やっぱり見覚えのあるその女の子の綺麗な顔を見る。

 すると女の子も、いつの間にか、じっと叶のことを見つめていた。

 二人の視線は、また自然と重なった。(そういう力が二人の間にあるかのように、引き合った)

 叶と同じ年頃に見える、高校生くらいの年齢の、背の高い、長い黒髪をした、とても美しくて、綺麗で、魅力的で、そして以前にどこかであったことがあるような気がする不思議な女の子。 

 どうしても、君の顔から目をそらすことができない。叶はまたその女の子の顔から視線を動かすことができなくなった。(もしかしたら、本当に僕はこの女の子が言っている通りに、一目惚れの恋をしているのかもしれないと叶は思った)

 叶がじっと女の子のことを見ていると、やがて女の子はにっこりと笑って、さっきと同じようにもう一度、その右手を叶に向かって差し出した。

「……えー、では、いつまでもこうしていても仕方がないので、改めまして、私から自己紹介をします。やあ、こんにちは。私の名前はいのりです。鈴木祈。よろしくね。弱虫くん」

 そう言って祈は叶を見て、にっこりと笑った。

 口調は少しふざけているけど、その笑顔は相変わらず、本当に魅力的な笑顔だった。

 ……いのり。鈴木祈。すずきいのり、……か。

 この女の子の名前は鈴木祈というのか。

 いのり。いのり……。

 もしかしたらこの女の子の名前を聞けば、この女の子のことを僕はなにか思い出すかもしれないと、叶は少しだけそう思って期待していたのだけど、祈の名前を聞いても、叶はなにも思い出すことはなかった。

 そのことが叶は少し、(いや、かなり)残念だった。

 それに叶は、(その顔や姿形や声と違って)……その名前にはまったく聞き覚えがなかった。

 やっぱり僕の思い違いなのかな? 記憶喪失といい、僕は今、自分で思っている以上にかなり混乱している状態にあるのかもしれない。

 森の中で偶然出会った綺麗な女の子を見て、その女の子にデジャビュのような、あるいは運命のようなものを感じてしまうくらいに……。(あるいは、生まれたばかりの赤ん坊が初めて見る動くものを自分の母親だと勘違いしてしまうみたいに、記憶を失った僕は、それから初めて出会った人間である祈に対して、あるいは、『運命のような気持ち』を感じているのかもしれない)

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