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55 エピローグ 君の心が、いつも穏やかでありますように。 紡ぐ糸 ある日、私はあなたに恋をした。

 エピローグ


 君の心が、いつも穏やかでありますように。


 紡ぐ糸


 ある日、私はあなたに恋をした。


 長い夏が終わって、季節が変わって、秋がやってきた。

 村田叶は、一人、様々な秋の色に色ずく紅葉の葉を見ながら、ゆっくりと森の中を歩いていた。

 叶の目指している目的の場所には、一人の女の子の姿があった。

 叶と同じ年頃に見える、実際には叶の一つ年上の女の子。

 その女の子は二人で作った手作りの真っ白なベンチの上に座って、ぼんやりと、その目の先にある森の湖の風景を見つめていた。

 女の子の名前は鈴木祈と言った。

 祈は、真っ白な秋用のコートを着ていて、クリーム色のロングスカートをはいて、足元は茶色のブーツと言う格好だった。

 叶は、秋用のらくだ色のコートをきて、白いズボンをはいて、足元は焦げ茶色の革靴を履いていた。

 叶が白いベンチのすぐ近くまで来ると、祈は叶のことに気がついて、叶を見て、小さく手をあげると「おっす。待ってたよ」と明るい声で、にっこりと笑いながら、そう言った。

「なに見てたの?」

 祈の座っている白いベンチの横に座って、叶は言う。

「あれ。鳥だよ。白鳥かな? 白くて大きな水鳥。あれを見てたの」と湖のほうを指差しながら祈は言った。

 確かにそこには白い水鳥がいた。

 二羽の大きな白い水鳥。

 その二羽の水鳥は、でもすぐに、ぱたぱたとその大きな翼を羽ばたかせて、二人の目には見えない遠いところにまで、二羽で仲良く一緒に、飛んで行ってしまった。

「あの水鳥たち。どんな関係だと思う? 親子かな? 兄弟かな? それとも、友達同士かな? あるいは、恋人同士なのかな? ねえ、叶くんはどう思う?」と嬉しそうな顔をして祈は言った。

「うーん。難しいな。よくわからないけど、恋人同士なんじゃないかな?」と叶は言った。

「どうしてそう思うの?」

「僕と君によく似ていたから」とにっこりと笑って叶は言った。

 祈はその体の横に大きな紙袋に入った荷物を持っていた。その荷物を見て、「それいったいなに? 僕にサプライズのプレゼント?」と祈に聞いた。

「残念だけど、違うよ。あ、いや、あっているのかな? 半分だけね」とふふっと笑って祈は言った。

「半分? 半分ってどういうこと?」叶は言う。

 すると祈は嬉しそうな顔をして、「じゃーん」とまるで手品師が、なにかの手品をその手品道具の中から取り出すようにして、その紙袋の中に入っているものを叶に見せてくれた。

 ……それは、『赤い毛玉と編み物用の二本の木の編棒』だった。(赤い毛糸の先の赤い紐は、紙袋の中にまで届いている。どうやら、ある程度、編み途中のものが、その紙袋の中には入っているようだった)

「それって、編み物道具?」と叶は言った。

「もちろん。そうだよ。どう見ても、それ以外には見えないでしょ?」と祈はいう。

「祈。編み物するの?」

「うん。するよ。マフラーを編むの。すごく長いやつ。二人で一緒に巻けるくらいに長いマフラーを編むの。夏の間にいろいろと考えていたんだけど、マフラーにすることにした。『赤いマフラー』。ねえ、叶くん。マフラーは冬までには、編み終わると思うからさ、もし完成したらさ、……ちょっと恥ずかしいと思うけど、この私の手編みのマフラー、……一緒に巻いてくれる?」

 とまるで周囲にある森の紅葉した木々の葉のように、顔を赤くしながら祈は言った。

 そんなまるで、十歳くらいの女の子みたいな、可愛らしい祈を見て、くすっと笑ってから、「もちろん。一緒に巻くよ。それに、全然恥ずかしくないよ。むしろ嬉しいくらいだよ。祈の手編みのマフラーを祈と一緒に巻けてさ」とにっこりと笑って、村田叶は、自分の大切な恋人である(自分の一つ年上の女の子)鈴木祈にそう言った。

 すると「本当!? ありがとう、叶くん!」とにっこりと笑って、本当に嬉しそうな顔をして、大げさにはしゃぎながら、祈は叶にそう返事をしてから、その頬にそっと、優しくありがとうのキスをした。


 君がいなくなった森の入り口 終わり

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