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52 私は、きっと救われていたんだと思う。あなたに。……ずっと。私が全然、気がつかないうちに。なんども、なんども、救われていたんだと思う。

 私は、きっと救われていたんだと思う。あなたに。……ずっと。私が全然、気がつかないうちに。なんども、なんども、救われていたんだと思う。


「あ、誤解しないでね。違うの! あのね、そういう変な意味で言ってるわけじゃないんだよ。あのね、一人だと、絶対に眠れないような気がして、叶くんに一緒にいてもらいたいって、思ったんだ」と少し慌てた様子で、祈は言った。

「誰かと一緒だと安心して眠れるってこと?」叶は言う。

「……うん。まあ」

 とこくんとうなずいて、祈は言った。

 そんな祈は、まるで憑き物が落ちたように、叶のよく知っているいつもの祈にいつの間にか戻っていたようだった。

「あのね、お願いだから、笑わないで聞いてね。えっと、一人で眠ることが、本当に怖くなっちゃって、昨日までは全然大丈夫だったのに、今日は、もうすごく怖くて、寝られないの。毎日、一人で生活をして、毎日、夜に一人で眠りについて、毎日、朝に一人で起きることが当たり前だったのに、その当たり前のことが今日はできそうもないの。変だよね。でも、本当に怖いの。なんだか急にひとりぼっちの夜が怖くなっちゃって、今日はなんだか一人で眠ることができないの。 

 すごく眠いのに、全然眠ることができない。

 だから、……お願い。

 叶くん。今日は、……その、一緒に寝てもらってもいいかな? 明日までには、なんとか一人で眠れるように努力してみるからさ」と、その真っ白な顔を、本当に真っ赤にして祈は言った。 

 叶は最初、そんな祈の言葉をずっと真面目に聞いていた。

 でも途中から、ついにこらえきれなくなって、頑張って我慢していたのだけど、つい、くすくすと噴き出すようにして笑い出してしまった。

「あ、叶くん! 笑わないでね、ってお願いしたでしょ!?」と、怒った顔をして、両ほほをリスみたいに膨らませるようにして、祈は言った。

 祈の顔は、まだ真っ赤なままだった。(さっきまでよりも、さらに赤くなったように見えた)

「……ご、ごめん。……でも、つい。祈が小さな女の子みたいなことをいうから……」と笑いをこらえながら叶は言った。

 すると祈は、「私、やっぱり、部屋に戻る。部屋に戻って、一人で寝る!」と怒った顔をしたまま、叶のベットからすくっと立ち上がった。

(そんな祈はなんだか、すごく元気になったように見えた)

「あ、ごめん。本当にごめん。心から謝るよ。真っ暗な夜が不安なのは僕も一緒なんだ。だから怒らないでほしい。僕も一人で不安だったんだ。だから、祈がまだ、僕と一緒に眠りたいと思ってくれているのなら、二人で一緒に眠りたいと僕も思う」

 と祈の手を握ったまま、叶うは言った。

「本当?」

「うん。本当」叶うは言う。

「嬉しい。じゃあ、今日は一緒に寝よう」と祈は言った。

 そして、二人は叶のベットの中で、二人だけで一緒に眠りにつくことになった。


「じゃあ、お邪魔します」

 へへ、となんだか少し、わざとらしくいやらしい笑いかたをして、一度、二人で、手をつないだまま、夜の中を冒険するみたいにして、(祈は元気にはしゃいでいた)祈の部屋まで一緒に行って、自分の枕を持ってきた祈は、その自分の枕をぽんぽんと叩くようにして、気に入った場所に置くと、先に叶が潜り込んでいた叶のベットの中にもそもそと嬉しそうな顔をして、入ってきた。

「お、すごい。あったかい。叶くんの温もりがある。それに、なんだかいい匂いがする。叶くんの匂い」と毛布の中で丸くなりながら、くんくんとベットの匂いを嗅いで祈は言った。

「すごく安心する」

 と、本当に安心した小さな女の子みたいな顔で祈は言った。

「あんまり、変なこと言わないでよ。恥ずかしくなるから」と叶は言う。(祈に自分の温もりがあると言われたり、匂いを嗅がれたりして、叶は本当に恥ずかしかった)

「嫌だよ。せっかくの機会だもん。もっと叶くんのベットの中を堪能しないとね」と嬉しそうな声で、祈は言った。(それは、もしかしたらさっき祈を小さい女の子みたいだと笑ったことに対する仕返しなのかもしれないと思った)

 祈は本当にはしゃいでいた。

 まるで本当に十歳くらいの女の子を相手にしているみたいだと叶は思った。


「じゃあ、電気消すよ」と叶は言った。

「うん。わかった。早く消して」とうきうきした顔で、ベットの中から顔を上半分だけ出している祈は言った。

 それから叶は電灯の紐を引っ張って、部屋の明かりを消した。

 すると、世界は真っ暗になった。

 それから、叶はベットの中に潜り込んだ。

 すると、あんまり目には見えないけれど、隣に祈がいることが体がぶつかったことで、よくわかった。二人の距離はとても近くて、お互いの肩と肩がくっ付くくらいの距離だった。(それでも、ぴったりとお互いの体が密着しないように、二人は意識的にベットの端の限界まで、距離を開けるようにしていた)

 部屋の中が真っ暗なになると、途端に、祈りはなにも言葉を話さなくなった。


 ……真っ暗闇の中に、ざーっという、強い雨の降る音だけが聞こえていた。


「……なんだか、緊張するね」

 少しして、すぐ隣で、祈が言った。(お互いに、息がかかるような距離だ)

「……うん。僕も、すごく緊張する」と本当に緊張している声で、真っ暗な闇の中で、叶は言った。

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