47 ……ずっと、私と一緒にいてくれてどうもありがとう。大好きだよ。
……ずっと、私と一緒にいてくれてどうもありがとう。大好きだよ。
真夜中の時間
君のいなくなった世界はいつも、真っ暗だった。
……眠れない。……どうしてだろう? 真っ暗な夜の中でそんなことを叶は思った。
……すごく、疲れているはずなのに。頭もぼんやりするし、からだ中くたくたで、疲れているのに。足だって両足とも、棒みたいになっているのに。
暗い夜の中で、ベットの中に潜り込んでも、まだ眠りにつくことができない。
まだ、意識を失うことができない。
(それは、僕が暗闇を恐れているからだろうか? まるで小さな子供のころに戻ってしまったみたいに)
真っ暗な部屋の中で、そのぼんやりとした暗闇を叶はじっと見つめている。
叶は視線を動かして天井から窓のあるほうに目を向ける。(暗闇の中には天井も、窓もどちらも目には見えなかったけど)
窓の外では、今も、ざーっという強い雨の降る音が聞こえていた。
雨は、まだ降り続いている。
きっと、このまま今夜の間はずっと、雨は降り続くのだろうと叶は思った。
叶はその雨の音を聞きながら、ぎゅっと、自分の青色のジャージのポケットの中に移動させた『二つに切れてしまった赤い紐』をぎゅっと握りしめていた。
叶は部屋の明かりを消して、初めて横になる見知らぬベットの中に入り込む前に、青色のスポーツバックの中身をもう一度、今度は隅々までしっかりと確認をしてみた。
森を抜けた先にあった草原でスポーツバックの中身を確認したときには、祈が近くにいたので、(祈は興味津々といった様子で、じっと叶のスポーツバックの中に目を向けていた)ここまでしっかりと、スポーツバックの中を確認はしなかった。それは、もしかしたら、『祈には絶対に見られたくないもの』が、そのスポーツバックの中には入っているのかもしれないと叶がそう思ったからだった。
記憶喪失になる前の自分が、このスポーツバックの中に『あるもの』を入れているのではないかと、思ったのだ。(それは、結構、絶対に近い予想だった。おそらくそれはきっとバックの中にある、と叶はほぼ、このとき核心をしていた)
……でも、スポーツバックの中をきちんと隅々まで確認しても、『そんなものはどこにも入っていなかった』。(叶はそのことをとても意外に思った)
叶うの青色のスポーツバックの中に入っていたものはやはり、数日分の下着や靴下などの着替えと、青色のジャージと、財布と生徒手帳と、なにも文字が書かれていない真っ白な小さなメモ帳と、古典と英語と数学の教科書とノート。筆記腰部。電源の切れてしまった携帯電話だけだった。
財布の中は、からっぽだった。(お金も、レシートも、それからカードのようなものも、なにも入っていなかった)
叶はベットに腰を下ろして、古典と英語と数学の教科書をぱらぱらとめくってみた。(内容は、だいたい理解できていた。どうやら僕は、それなりにきちんと勉強をしていたようだ。勉強をした記憶は、まったくないのだけど……)
それから今度は三冊あるノートを順番にぱらぱらとめくってみた。
今度も真っ白なのかな? と叶は思ったのだけど、ノートにはきちんと途中までの(つまり、夏休みに入る八月までの、一学期分の)勉強のあとがきちんと、残っていた。
ノートの記述は、どうやら、きちんと一学期の終わりまで、つまり夏休みに入るところまで、書かれているようだった。
その三冊のノートの中に書いていある文字や数式を見て、叶は初めて、自分の書いた文字を確認した。(それが自分の書いた文字だとは思えなかった。なんだか不思議な感じがした。でも、確かに僕はこうして教科書を見ながらノートをとって、どこかの高校できちんとつい最近まで授業を受けていたようだった)
叶うはそれから生徒手帳を開けて、自分の名前と写真を見た。そこには確かに、叶うの顔と『村田叶』(むらたかなう)の名前があった。
それが発行された西暦や日時。それに高校の名前も書いていある。
それらを叶はもう一度、確認をする。(まるで、鏡を見るようにして。自分の存在を、自分自身でもう一度、しっかりと確認するみたいに)
叶はそれから、それらのものを青色のスポーツバックの中に大切にしまった。
叶は一人でため息をついて、小さく笑った。
……よかった。と叶は思った。
本当に、よかった。僕はそれほど、自分自身や、自分の生きてきた世界や、自分のこれまでの人生に、……『絶望していたわけじゃない』ようだった。




