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 祈はもう一つの、まだ叶の入ったことのないほうの木のドアを開ける前に一度、リビングとキッチンをその場から見回して、ちゃんと夕食の後片付けが終わっているのか、最後の確認をしてから、そっと手を伸ばして、リビングとキッチンの二つの部屋の電気を両方とも消して、世界を真っ暗にしたあとで、木のドアを開けて、(闇の中に、ぎーという音がした)その後ろにあるスペースに移動をした。

 それから祈は、すぐにどこかにある電気のスイッチを押したようで、世界はまた急に明るくなった。

 その明かりの中で、叶は祈の代わりに木のドアを閉める。


 ……そこは、やはり階段のあるスペースだった。

 二階に続いている小さなとてもいい木の香りのする、(おそらく)ヒノキで作られている階段があった。(それはさっき作られたばかり、と言われても信じることができるくらいに、新鮮な木の香りのする綺麗な階段だった)

 その横の木の壁には、木のドアが二つある。

 一つは、普通のドアで、なんのためにあるドアなのか、見ただけではわからない。

 でも、もう一つの木のドアのドアノブには、『トイレ』と手書きの文字が書かれたの小あ看板がかけられていた。(手書きの、子リスとどんぐりのとても可愛らしい絵が描かれている看板だった。この文字と絵を描いたのは、もしかして祈なのかな? と叶は思った)

 その部屋は、どうやらその小さなでガキの看板の文字通りに、トイレになっているようだった。

 その小さなヒノキの階段と、トイレのドアの前にある空いているスペースには小さな丸い木のテーブルが置いてあった。

 その丸テーブルの上には、電話が一つ置いてあった。

 真っ白で、細かいところに金色の装飾がなされていて、とても、おしゃれな形をしている、ダイアルを回すタイプのとても古い電話だった。(これもきっと、この家の中におじさんが集めたアンティークの品の一つなのだろう。どこか、歴史ある古い高級なホテルのロビーや、あるいは、遊園地やアトラクションの施設の中に置いてあるような、そんな生まれる時代や場所を間違えたような、電話だった)

「ここはトイレで、それで、あっちのドアは物置になっているんだよ。掃除道具とかが入っているだ」とにっこりと笑って祈は言った。(どうやら叶が二つのドアをじっと見ていたので、説明してくれたようだった)

「あのさ、祈。トイレ、借りてもいいかな?」叶は言う。

 叶は早速、トイレを借りることにした。(トイレを見たら、急に少し、トイレに寄りたい気分になった)

 そのことを、そんな風にして叶が祈に告げると、「もちろん。いいよ。じゃあ、私は先に上で待ってるね」と祈は言った。

「ありがとう」

 と、叶は言った。

 それから叶は木のドアを開けて、トイレの中に移動をした。


 祈の家のトイレは、とても綺麗に掃除がされている、ものがほとんどなにも置かれていない、小さなトイレだった。(置いてあるものは、置くタイプのカレンダーと、トイレットペーターの予備と、それから、子うさぎの陶器の置物だけだった)

 その小さなトイレは、やはり削りたてのような、木のいい匂いがした。どこか、ほっと安心できるような雰囲気のある素敵なトイレだった。

 そのトイレの中には、棚の上に、子うさぎの陶器の置物と並んで、一緒にカレンダーが置いてあった。

 小さなカレンダーだ。

 カレンダーは『八月』のページになっていた。

 その青空と緑の山の絵が描かれた八月のカレンダーを見て、叶は、そうだ。今は季節は夏で、そして、……今の『月は確かに八月』だった。とそんなことをはっきりと、思い出した。

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