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41 あなたの元に。愛する人の元に駆け出していく。

 あなたの元に。愛する人の元に駆け出していく。


 泣きながら。涙を流しながら、笑ながら、思いっきりジャンプして、両手を広げてくれているあなたの胸に飛び込んでいく。……そこが私の居場所だった。そこが私の、……ずっと求めていた居場所だった。


 祈の選んでくれた、祈の親戚のおじさんの大好きな曲だという陽気で明るいレコードの曲が、終わりを告げた。

 そのころには、二人は楽しい食事を終えていた。

「美味しかったね。ありがとう、叶くん」と祈は言った。

「どういたしまして。こちらこそ、素敵な時間をありがとう」叶は言う。


 それから二人は一緒に、ごちそうさまをした。

 リビングの電気をつける前に、祈がテーブルの上にある古いロウソクの火をふー、と息で吹き消すと、一瞬で、世界は真っ暗闇に包まれた。

 でも、それからすぐに、ぱたぱたという祈の歩くスリッパの音が聞こえて、そのあとで、すぐに明るい電気がついた。

 真っ白な電灯の明かりがついて、世界はまた、真っ暗闇の世界から、いつも通りの明るい、日常の世界に戻った。(本当に、魔法がとけたようだった)

 そこにはいつもの部屋があって、そこにはいつもの祈がいて、そして、(これはとても、重要なことなのだけど)……そこには、いつもの叶がいた。

 ……僕は、僕のよく知っている、日常の世界に戻ってきたのだ。 

 すごく安心できる明るい真っ白な電灯の明かりの下で、そんなことを叶は思った。

 真っ暗な夜の時間は終わった。

 魔法の時間は終わったのだ。

 叶は席をたった。

 そして、空っぽになった食器を持って、同じように食器を持っている祈と一緒にキッチンに移動をする。それは、もちろん、夕食のあとの洗い物をするためだった。


「この家、古いものばっかりでしょ?」電気をつけたあとで、夕食の後片付けを二人で一緒にキッチンでしているときに祈は言った。

「よく言えばさ、アンティークなものっていうのかな? 古いレコードや、さっきの古いロウソクもそうなんだけどさ、……おじさんが、そういうものが大好きだったんだ。古くて、歴史があって、たくさんの人の手を渡ってきたものが、大好きだった」

 立派な、古いロウソクとロウソク立ては、そのままリビングのテーブルの上に置かれたままになっていた。

 その火の消えて、長さが半分くらいになっている古いロウソクを叶は見る。

 ……確かにそう言われてみると、レコードや、ロウソクだけではなくて、この家の中にあるものは、全体的に古くて、歴史がある物、が多い気がした。(……でも、それらの品はどれも、とても丁寧に、きちんと手入れがされているようだった。畑で育てている野菜と同じだ。手間をかける。愛情を込める。おじさんも、それから祈も、そうやって、この家の中にあるものを大切に使い、保管しているのだろう)


 夕食の食器の洗い物をしながら、叶はつい癖で、なんとなく時間を確認しようとして、じっと、リビングの壁にかかっている、針の止まっている八角形の時計を見た。

 その八角形の動きを止めている時計を見てから、『そうだ。この家の時計の時間は、ずっと止まっているんだった』と叶は思った。

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