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「君は弱虫だね。それに、素直じゃないし、臆病者だね」

 そう言って、君は情けなく腰を抜かしている僕を見て、本当に幸せそうな顔でにっこりと笑った。その君の笑顔を僕は今も覚えている。そして、きっと一生忘れることはないはずだと思う。

 ……叶はまた、その女の子の『どこか見覚えのある顔』に、視線が釘付けになった。

「はい。どうぞ。弱虫くん」

 そう言って女の子はその細くて白い小さな手を叶に向けて差し出した。どうやら叶が立ち上がることを女の子は手伝ってくれるみたいだった。

「……ありがとう」

 そう言って叶はその女の子の差し出してくれた手を握った。

 ……女の子の手はすごく冷たかった。

 叶は女の子の手を借りて地面の上に立ち上がった。(でも、まだ叶の両足はぶるぶると震えたままだった。そんな叶のことを見て、女の子はまた腹を抱えて笑った。叶はその顔を真っ赤にした)

「それで、なんであんなことしたんだよ?」と制服を両手ではたいて、土の汚れを落としながら、叶は言った。(叶の顔はまだ真っ赤だった。叶の言葉には若干の照れ隠しの意味もあった)

「あんなことって?」言っている意味がわかんないよ、と言った表情をして女の子は言う。

「僕を突然、驚かしたこと。こんな森の中であんなことをされたら、誰だって腰を抜かすよ。僕じゃなくてもね」強がって叶は言った。(弱虫と言われたことを叶は気にしていた)

「ああ、あれね。あれはね……。そうすれば君が元気になるかなって思って」とにっこりと笑って女の子は言った。

「元気に? 僕が?」叶は言う

「そう。元気になって、少しは明るくなるかなって。そう思ってわって大声をだして君を驚かすことにしたんだよ?」なにか文句ある? と言いたげな表情で女の子は言った。

「君に驚かされなくても、僕はもともと元気だよ」まあ、記憶はないけどね、と心の中でつぶやきながら、呆れた顔をして叶は言う。

 それから叶はちょっと気になって、自分の頭を髪の毛の上から触ってみた。もしかしたら自分が記憶喪失になったのは、なにかの拍子で森の中で強く頭を打ったからではないのか? と思ったからだった。

 でも確認してみると、どうやら頭に怪我とかしているわけではないようだった。叶は安心したのだけど、ではなぜ僕は記憶喪失なのだろう? と言う叶の疑問は残ったままになってしまった。

「そうかな? そうは見えなかったけどな。さっきの君は本当に『深刻な顔』をしていたよ? 『すっごく不安そうで、思いつめた顔』をしていた。まるで『生きているって感じがしなかった』。私、最初に君を森の中で見つけたとき、『あの人は幽霊かもしれない』、……うわ、私、もしかして幽霊を見ちゃった? ……って思ってすごく驚いたくらいだったんだからね」

 と女の子は言った。

 女の子にそう言われて、叶は驚いた表情をする。

 ……幽霊かもしれない? 誰かにそう思われるくらい、僕はそんなひどい顔をしていたのか? ……自分では全然気がつかなかった。

 叶はそう思ってから、「じゃあ、君は結構前から僕のことをこの森の中から見ていたの?」と女の子に聞いた。すると女の子は「そうだよ。ずっと見てた。君のこと。森の中から」と全然悪気もない表情で、今度は呆れた顔をしている叶にそう言った。

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