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「どう? 雰囲気出たかな? まるで魔法みたいでしょ?」と、にっこりと笑って、オレンジ色のロウソクの火の明かりに照らされている祈は言った。
「うん。すごくよく出てるよ。びっくりした。でも、こんな古風なロウソクなんて、よく家の中にあったね」と叶は言う。
その古風なロウソクは、中世の貴族の家にでもあるような、そんなアンティーク調の立派なロウソクとロウソク立てだった。
「うん。あのね。おじさんがね。こういう、お祝いごとが大好きな人だったの。ハロウィンとか、クリスマスパーティーとかさ。あとは、誰かのお誕生日とかね。このロウソクはね、そんなお祝いのパーティーで使った道具の一つなんだ。たしか、私が小学生のころのクリスマスパーティーのとき、だったかな? それをさっき思い出したの。今日の食事は、ささやかだけど、私と叶くんの二人の初めての出会いをお祝いするものだったから、もう、使うこともあんまりないと思うし、今、ちょっと思いついて、せっかくだから使っちゃった」とちょっとだけ舌を出して、いたずらっ子のような顔をして、祈は言った。
「そうなんだ。祈の話を聞いていると、なんだか本当に、祈のおじさんはすごく素敵なおじさんだね。僕も一度、会ってみたかったな」と叶は言った。(それは叶の本音だった。どうやら、祈の親戚のおじさんは、本当に素敵な人だったようだ。趣味も叶と合いそうだった)
「うん。私、おじさんのこと、大好きだったの。本当に素敵なおじさんだった。大好きなおじさん。……もう、死んじゃったけど」闇の中を見て、祈は言った。
……その会話のあとで、二人は沈黙して、少しの間、テーブルを挟んだままで、お互いの顔を見つめあった。
夕食の準備が整った、リビングのテーブルのところ座っている二人の姿は、周囲の真っ暗な闇の中で、ぼんやりと明るく光っている、淡く丸いオレンジ色のロウソクの火の明かりに照らされている。
……その風景は、なんだかまるで本当の魔法のようだった。
(僕は、魔法にかけられているのかもしれない、と叶は思った)
ついさっきまで、明るい太陽の光と、それから、真っ白な電灯の明かりの中にいたお風呂上がりの祈は、なんだか本当に色っぽく見えた。
肌がほんのりと赤く染まっていて、……まだ、白い湯気が体全体から立ち上っていた。長い黒髪がほんのりと濡れていた。
黒くて大きな目が叶のことをじっと見つめていた。
白い耳と、白い頬が、ほんのりと健康的な赤い色に染まっていて、すごく魅力的だった。(もともと、祈はすごく魅力的な女の子だったけど)
そして、今の古風なロウソクのぼんやりとしたオレンジ色の淡い薄明かりの中にいる祈は、そんな健康的で綺麗で、明るくて、魅力的な祈とはまた少し違う不思議な魅力を感じた。
……どこか、今までの祈とは違う、もっと大人っぽい雰囲気を持っていた。
そう。どこか、大人っぽい雰囲気だ。(祈はとても美人なのだけど、性格が子供っぽいためなのか、どこか幼い女の子がそのまま大きくなったような、そんな印象を受けていた。年は一個上だけど)
僕は十七歳で、祈は十八歳なのに、……一個しか年齢は変わらないのだけど、ロウソクの明かりの中で見る祈りは、随分と自分(叶)よりもは大人っぽく見えた。
……僕の姿も、同じように、この薄明かりの中では、こんな風に祈の目からは『本当の大人のように』見えているのだろうか? まるで、お互いに不思議な魔法にかかったみたいに、とそんなことを叶は思った。(もしそうだったら、嬉しいと思った)
……ざー、と言う強い雨の降る音が聞こえた。
その音を聞いて、叶は、一度、自分の思考をそこで中断させた。




