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叶は次にキッチンに目を向ける。
祈の家のキッチンは、白い色を基調とした、小さくて、そしてやっぱりこの場所も、とても置いてあるものの少ないキッチンだった。
でも、ところどころに、洗剤やスポンジ、調理のあとの掃除のあとや、洗い場に洗い物が置いてあったりして、すごく綺麗にだけど、でも確かに使われている形跡があった。
(……そう。確かにリビングとは違い、キッチンにはきちんとした祈の毎日の生活のあとがあった)
真っ白なキッチンの床の端っこには、先ほど祈が持っていたダンボールの箱が置いてある。蓋は開いていたので中を覗いてみると、その中身は食材だった。野菜を中心とした、……人参、ジャガイモ、玉ねぎなどの、カレー用の食材だ。
キッチンの奥には、下に続いている木の階段のような者が見えた。
どうやら、祈の家には二階だけではなく、地下もあり、そこに食材などが貯蔵されているようだった。きっとそう行った日用品の貯蔵庫として、地下の部屋は使われているのだろう。
叶がキッチンの引き出しを開けると、そこには綺麗にしまわれている調理器具が一式あった。(包丁、まな板、鍋、おたま、皮むき器、など必要なものはなんでもあった)
ぴかぴかの流し台、二つの並んだガスコンロ。その横には大きめの真っ白な冷蔵庫が置いてあった。(勝手に開けて、悪いと思いつつ)冷蔵庫を開けると、そこには食品がびっしりと入っていた。牛乳、バター、卵、ベーコン、など、なんでもあった。(祈は一人暮らしをしていると言っていたけど、一人分の食事にしては量が多いと感じた。……祈は結構、ああ見えて、大食いなのかもしれない)
叶は、目的があるとはいえ、勝手に見て回って悪いかな、と思いながら、そんな風にしてキッチンの様子を、隅々まで見て回った。
それから、ちょっと考えごとをしてから、お風呂場に通じている木のドアを見る。
木のドアはまだ、……閉じたままだった。
今のところ、そこから、祈が「ただいま」と言って、リビングの中に入ってくる様子はない。ゆっくりとお風呂に入って森の中の土汚れを落として、それから二人分の洗濯をして、それを干したあとで、戻ってくるのだから、もちろん、それなりに時間はかかるだろう。
叶は針の動いていない時計になんとなく目を向けてから、キッチンに立って、自分の顎に手を当てながら、少しの間、上を向いて、また考えごとをした。
それから、勝手に食材や、キッチンの道具を使ってしまっていいのだろうか? (祈がリビングを出て行く前に確認すればよかった。でも、ちょっとだけ、驚かせたい気持ちもあった)とは思ったのだけど、叶は一人で、勝手に、晩御飯のカレーの料理の準備を、下ごしらえから始めることにした。




