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 薄緑色の草原の中を歩いている途中で、叶は、ふと、自分がまだ肩に背負っている青色のスポーツバックの中身を確認していないことに気がついた。(もし、スポーツバックの中に財布や生徒手帳。あるいは、日記やメモ帳のようなものや、それに携帯電話が入っていたら、僕が誰なのか、僕はどこからこの森の中にやってきたのか、それを確認することにとても役にたつだろう)

「どうしたの、叶くん?」

 ぼんやりと自分の青色のスポーツバックを見ている叶に祈は言う。

「あ、そういえば、叶くん。電話持っていないの? 携帯電話。私は携帯電話、持っていないんだけどさ、それにここは残念ながら深い森の奥にあるから電波が届かない場所なんだけどさ、もし携帯電話があるなら、その携帯電話の連絡先を見れば、それで叶くんの家族のことや友達のことがなにかわかるんじゃないの?」

 と期待を込めた顔をして祈は言った。(あと、……叶くんの、どこかにいるかもしれない恋人のこととかさ? と言う言葉を祈は言いかけて、……なんとなく、言うのをやめることにした)

 どうやら祈も、叶がスポーツバックを見ていたのを見て、叶と同じタイミングで、そのことに気がついたみたいだった。(祈の視線は叶の肩に背負っている青色のスポーツバックを見ていた)

「まだ、荷物の確認をしていないんだ。祈の家に着いたら、バックを開けて、どんなものが入っているのか確認してみるよ。今は手も汚れちゃっているしさ」と叶は言った。

「それもそうだね。わかった。じゃあ、家に着いたら、早速『二人で』、その叶くんのスポーツバックの中身を確認してみよう」と祈は言った。

 でも、それから少し歩いたところで、「うーん」と祈は言う。

「やっぱりだめよ。我慢できない。今すぐ確認しなさい。気になるでしょ?」祈は言う。

 祈の家まではもう少し距離があった。でも、それほど時間がかかるというような距離ではない。

「祈の家まで、もう直ぐだよ?」

「そうだけど、我慢できないの」わくわくした顔で、祈は言う。

「ほら。ハンカチ貸してあげるから。早く、早く」

 祈は言う。

 祈は自分の真っ白なハーフパンツのポケットの中から、とても綺麗な、真っ白な絹のハンカチを取り出した。

「いいの? 土で汚れちゃうよ?」叶は言う。

「いいよ。そんなの。あとで洗えばいんだからさ」祈は言う。

 祈にそう言われて、久しぶりに祈と手を離した叶は、(手を離すとき、二人は少しだけ躊躇した)その真っ白な絹のハンカチで自分の手をできるだけ綺麗に拭いてから、(ハンカチはすぐに祈に返した)自分の肩に背負っていた青色のスポーツバックを土色の道の上に下ろして、そのチャックを開けて、中の荷物を確認してみた。

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