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 叶はしばらくの間、その二つに切れた赤い紐の姿をじっと見つめた。

 その赤い紐を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになった。誰かの、すごく大切な思いのようなものが、その紐には込められている気がした。

 叶は、なんだかその赤い紐から目をそらすことができなくなった。

 そうして叶が赤い紐をじっと見ていると、叶の近くの森の中でがさっという音がした。

 なにかが森の中で動いた音だ。

 その音を聞いて叶は、はっとして、その意識を覚醒させた。

 ……危ない、危ない。ぼんやりしている場合じゃない。僕は今、かなり危険な状態にいることは間違いないのだ。(ただでさえ、記憶がなくて困っているのに……)

 叶はとりあえず赤い紐を自分の制服のスボンのポケットの中に無くさないように大切にしまった。 

 それから叶は自分の青色のスポーツバックを肩に背負うと、音のしたほうに体を向けた。

 叶はいつでも走り出せるように、前傾姿勢をとる。(誰だろう? それとも森の動物たちだろうか? 猿や鹿ならともかくとして、犬や、最悪熊とからだったら、……本当にやばいな)

 叶は、神経を研ぎ澄ませる。

 目を凝らして、森を見つめて、耳を済ませて、風の音を聞こうとする。森の匂いを嗅いで、そこにいる何者かの正体を探ろうとする。

 がさっと、また音がした。

 やはり、なにかがいる。

 ……武器。木の棒でもいいから、なにか手頃なものはどこかに落ちていないだろうか?

 叶は、自分の周囲の地面を見る。でも手頃な大きさの木の枝や、あるいは石のようなものはどこにも落ちていなかった。

 これは、もう熊だったら逃げるしかないな。

 叶は思う。(そして、なぜか小さく笑った)

 案外落ち着いている。どうしてだろう? 怖いことは怖い。ほら、足だってちゃんと震えている。(叶の両足は、さっきからずっと小さく震えていた)でも、なぜか心は思ったよりは落ち着いている。

 僕は死ぬのが怖くないのか? ……いや、そんなことはない。『死ぬのは怖い』。じゃあどうして僕の心は、こんなに落ち着いているのだろう?

 とそこまで叶が考えたところだった。

 急に自分のすぐ目の前になにかの気配を感じた。

 その気配を感じて叶はしまったと思った。考えに集中しすぎた。森の中にいるないんかの気配を探ることをすっかりと忘れていた。

 叶は、無意識に下げていた視線を上にあげた。

 するとその瞬間「わ!!」という『人間』の声がした。

「うわ!!」

 叶は本当に驚いて、そのまま後ろに尻餅をつくような格好で倒れこんでしまった。(震える足で、前傾姿勢を突堤ことが仇になってしまった)

 すると、そんな叶を見て、自分の顔の前でまるで花が咲くようにな格好で両方の手のひらを広げている、口を大きく、わ、の形で開いている叶と同年代くらいの女の子が、その情けない叶の格好を見て、にやっと口の形を変えて、それから大声で笑った。

「……な、なんだよ」驚いた表情のまま腰が抜けている叶は言った。

 腹を抱えて笑っている女の子はそのまままだ大地の上に尻餅をついている叶のことを指差して「……き、君、面白い。……それに、すっごくかっこ悪いね」と笑いながら、そう言った。

(叶は、顔には出さないように我慢していたけど、初対面の自分と同い年くらいの女の子にそんな失礼なこと言われて、内心かなりむっとしていた)

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