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 でも、この森にはちゃんと『終わり』があって、深い緑色の森の先には広い薄緑色の草原が広がっているということだった。

 その薄緑色の草原の中にある一軒の古い小屋で、祈はずっと一人で生活をしているらしい。

 森の中で倒れていた叶に「とりあえず、用事がないなら、一緒に私の暮らしている家にこない? ずっと一人で暮らしていて、最近、少し暇だったんだ」と言って、自分の住んでいる小屋に祈は叶を誘った。

 森の中は叶が思っている以上に危険な場所だし、この辺りには祈の住んでいる小屋以外に、人の生活している場所はないということだった。(どうやらほかに選択肢はないらしい)

 そんな風にして、いきなり私の家にこない? と祈に誘われて、叶は最初、本当に戸惑ってしまった。

 祈は本当に優しくて、森の中で知り合いになったばかりの叶にも、すごく親切にしてくれるけど、でも、だからと言って、その優しさに素直に甘えて、一人で暮らしている女の子の家に出会ったばかりの男の子である自分がお世話になってしまっていいのか? と考えたからだった。

 叶がそんな風にして一人で考え込んでいると、祈はそんな叶の考えをその表情から感じ取ったようで、「今は緊急事態なんだから、そんなに深く考える必要はないよ。それに叶くんだって、このままこの深い森の中で、一晩過ごすつもりじゃないんでしょ? それに大丈夫だよ。別に叶くんのことを、捕まえて、食べよう、なんて私はちっとも思っていないからさ」

 とその歯をがじがじと動かしてから、にっこりと笑って祈は言った。

 もちろん叶は自分が祈に食べられてしまうとは、これっぽっちも思っていなかったけど、でも祈は全然そんな風には思っていないようだけど、叶だって、一応、立派な十七歳の男の子だった。(弱虫でも、ぼんやりしていても、記憶がなくても、男の子であることには変わりがなかった)

 女の子の祈にそう誘われて、「じゃあ、わかった。すごく困っているから、今日は君の家にお世話になるよ」と言って、ほいほいと出会ったばかりの一人暮らしの女の子の家に転がり込むわけには行かなかった。

 ……でも、こうして、祈と一緒に森の中を歩いていることからも(ある程度)わかるように、叶は結局、しばらくの間、悩んだあとで、祈の親切なお誘いを受けることにした。

 それはもちろん、祈が言ったように、森に慣れていない都会育ちの叶にはこれから森の中で、どっちに進んでいいのか、まったくわからなかったし、それに、あるいは奇跡的に、もし本当に、この深い森の中を偶然、外に出られたとしても、記憶喪失の叶にはもう、帰る家も、場所も、友達も、家族のことも、つまり叶を待ってくれている人がこの世界のどこかにいるのかどうかも、本当になにもわからない状態だったからだ。(そういう意味では、叶は迷子だった。帰る場所がない、待つ人のいない、永遠の迷子だ)

 ……あと、それにもっとも大きな理由として、やはり『鈴木祈』という森の中で出会った一人の不思議な女の子の存在があった。

 叶は今でも、どうしても以前にどこかで、祈と会ったことがあるような気がしてならなかった。

 鈴木祈という自分と同じ年頃の一人の女の子のことを、自分が以前から知っているような気が、祈と初めて出会ったときから、ずっとしていた。

 だから叶は、祈のお誘いを受けたのだ。

 ……もう少し祈のそばにいれば、祈のことについて、なにかを思い出すかもしれないと思った。

 そう思った叶は「わかった。じゃあ、本当に申し訳ないけど、……今日のところは、祈の家で、その、……お世話になってもいいかな?」と遠慮がちに祈に言った。

 すると祈は「……うん。それがいいよ。すっごくいい。今までで一番いい答えだよ。その答えがきっと正解だよ。たった一つの本当の答え。……そのことは叶くんに私が保証してあげる」とにっこりと本当に嬉しそうな顔で笑って、叶に言った。

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