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1 あなたと出会ったとき、私は本当に驚いた。

 君がいなくなった森の入り口


 登場人物


 村田叶むらたかなう 記憶喪失の少年 十七歳


 鈴木祈すずきいのり 誰かによく似ている少女 十八歳


 本編


 切れた糸


 あなたと出会ったとき、私は本当に驚いた。


 叶が目をさますと、そこは深い森の中だった。見たこともない、深い森の中。その緑色の木々に囲まれた草の生える焦げ茶色の大地の上に、叶は一人で眠るようにして倒れていた。

 ……ここは、どこだろう?

 目を覚ました叶は、上半身だけ体を起こすと、ぼんやりとする頭を軽く左右に振ってから、周囲の様子を観察してみた。

 すると、そこにあるのは森の木々だけだった。

 緑色の葉を茂られせている、ずっと続いている森の木々。そんな風景が叶の周囲には永遠と広がっているだけだった。

 大地を観察してみても、地面の上には道もない。それだけではなくて、自分がここまで歩いてきた足跡、あるいは移動をしてきた痕跡のようなものもどこにも見当たらなかった。

 叶がそんな風景を見てぼんやりとしていると、空の上で、鳥が小さな声で鳴いた。

 ……僕はどうしてこんなところにいるんだろう? どうやって僕はこの場所までやってきたんだろうか?

 叶はそんなことを考えてみる。でも『なにも思い出せない』。

 ……うん? あれ? おかしいな。えっと、僕は……。

 そうやって自分の頭の中にある様々な記憶をたどってみる。でも、その道筋はどれも行き止まりばっかりだった。

 叶は、やっぱり『なにも、自分の過去が思い出せなかった』。

 叶が覚えているのは、かなうと言う自分の名前と、自分がどこかの高等学校に通っている現役の高校生であるということだけだった。(叶のきている服装は、高校のブレザーの制服だった。そのことも叶の記憶が間違っていないことを裏付けていた)

 それ以外はなにも思い出せない。

 ただ、幸いなことにこんな状況でも、『記憶はなくても、知識はちゃんと叶の頭の中に残っていた』。

 これからとりあえず森の中を移動したり、あるいはこの場所で助けを待つためにしばらくの間生活するとしても、とにかく、この場所で、生きていくために必要な知識は、ちゃんと叶の中に残っていた。(叶は、ほっとした)


 叶の倒れていた地面のすぐ近くの場所には、叶うの愛用している大きめのサイズのバックが落ちていた。(それが自分の荷物であると、一目で叶にはわかった)

 青い色をしたスポーツタイプの肩にかけるタイプのバックだ。 

 中にどんな荷物が入っているのか、それを確かめるために、その青色のスポーツバックに手を伸ばそうとしたときに、叶は自分の右手がぎゅっと閉じられていて、その右手のひらの中に、自分が『なにか』をしっかりと握りしめていることに気がついた。

 ……眠っている間、あるいは気を失っている間かもしれないけれど、僕が、ぎゅっと無意識に握りしめていたもの。(それは、……つまり、この握りしめているものが、僕にとって『とても大切なもの』だということだろうか?)

 叶の頭の中にその握りしめているものの記憶はなかったのだけれど、それを確かめてみることは簡単だった。手を開けばいいだけだ。叶はそっと、自分の右の手のひらをゆっくりと開いてみた。

 すると、そこには、『赤い紐』が一本あった。

 綺麗な赤色をした結び目のある一本の長い紐。

 ……これはなんだろう? アクセサリー? いや、……もしかして、お守りかな?

 その赤い紐は、どうやら体の一部に巻きつけることのできる(髪留めでもいいのかもしれないけれど)お守りのようだった。

 でも、よく見てみると、その赤い紐のお守りは、その結び目のところではなくて、その紐の途中のところから、『ぷつん、と切れて半分に』なってしまっていた。

 赤い紐のお守りはちぎれて二つになってしまった。

 きっとそのせいで、たぶん自分の右手に身につけていた叶の手から、この赤い紐は落ちてしまったのだと思った。

 だから叶は、その切れてしまった赤い紐を無くさないように、ぎゅっと自分の右手の中に握っていたのだと、そう思った。(記憶はなかったけど、その考えは、なぜかとても正しいように思えた)

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