主人公の善悪
「物語の主人公が支持や称賛を得やすいのはどうしてだと思う?」
「その切り出し方は、また創作論の流れか」
「違うわよ。これは創作論っぽい何かよ」
「どうしてわざわざ『っぽい』とかあいまいにするんだ」
「だってこの程度の話は先人がいくらでも分析して述べてるし、調べたらもっと詳しい創作論が山ほど出てくるもの。今さら語るほどでもないことを創作論だなんて、おこがましくて言えないわ」
「じゃ、何でここに書いているんだ?」
「そんなもの作者のアウトプットのためよ。あと毎日更新はできるだけしたいから。つまり自分のためだけね。なんて最低なのかしら」
「自分で言うのか……」
「こほん。で、主人公がウケる理由って何だと思う?」
「そりゃあ格好いいとか、共感しやすいとかじゃないのか?」
「それも確かに間違いじゃないけど、もっと根本的な部分があるわ。それは『主人公の行動が心地いい』からよ」
「うーん? 何か、言われてもピンと来ないが」
「極端に言うと『善行を為しているか』どうかね」
「……そうかな? 人気のある主人公が、必ず善い行いだけやっているようには思えないけれど」
「もちろん悪事を働く主人公もいるけど、結果的に善行に繋がるパターンは多いはずよ。要するに『主人公の行いに不快感が少ない』かどうかね」
「ああ。そっちの方がなんとなく分かるかな」
「悪が悪をぶっ飛ばすタイプの作品も、悪の中で善や秩序が分かれているからね。そこで『心地良さ』を覚える人も多いでしょう」
「『○が如く』みたいなものか」
「意味があるか分かりませんが、検索避けに一応伏字にしております。ついでだし、『鬼○の刃』も例に上げてみましょうか。あの作品の主人公を思い浮かべてみれば、『主人公の行動が心地いい』方が支持されやすい、というのは想像がつくと思うわ」
「あの作品の主人公か。確かに不快感を抱く人は少なそうだ」
「未熟さや良い子ちゃん振りに抵抗を覚える人はいるかもしれないけど、全面的に嫌い、みたいな人は少ないでしょうね。そもそも圧倒的に支持を受けていることは作品の人気ぶりが示しているでしょうし」
「それは主人公の人気だけが理由じゃないのでは?」
「今回は作品分析じゃないからそこは省くわよ。仮に、主人公が妹を一話目からあっさり殺してしまったら、絶対支持は得られないでしょうね。話としては斬新だけど」
「無茶苦茶ハードル上がりそうだな。少年誌ってことも含めて」
「あの手の王道型主人公が常に支持を得るのは、善行を周りに施すことで読者が快感を得られるからね。快感って言うと何か悪く聞こえるかもしれないけど、要するに良い気分にしてもらえるってことよ」
「ふむ……でもライトノベル見てると、主人公が奴隷少女を解放するとか、善行を為しているにもかかわらず『不快な主人公』のレッテルを貼られることがあるけど」
「そこは状況と流れによるとしか。例えば主人公が善人でも悪人でも、奴隷を手に入れる明確な理由付けがあるとしたら、どうかしらね」
「奴隷を買うことや奴隷商自体が悪だから支持されないのでは?」
「面倒な。じゃ、買うな。えーまあ、善行を為しても不快に見られるなら、描写の足りていない部分があるってことじゃないかしらね」
「微妙に投げやりな解説になったな」
「うーん。じゃあ仮に私が町中で子供を連れ歩いているとしたら、あなたはどう思う?」
「誘拐かと思って警察に通報する」
「ふっ、信頼感ばっちりね。悲しくなるけど。まあこういう見方をされるから、仮に主人公を善に置きたいなら、最初から全力で置いておかないとダメだと思うわ」
「一度イメージがつくと払拭しづらいからなあ」
「善悪があいまいな主人公ももちろんありだと思うけど、最終的に利他的なのか利己的なのかは決めておいた方がいいでしょうね」
「まあ物語上、絶対に選択は迫られるわけだしな」
「ちなみに私は利他的で善の主人公よ」
「堂々と嘘を織り交ぜるな」