The sun = 太陽
夏休み初日。
「到着ぅっと」
王道、図書館。一日目からあまり知らない場に赴くのは心臓に悪いため、よくいく場所がベスト。
自転車に鍵をかけ駐車する。リュックの肩紐に指を入れて軽く持ち上げる。まだ太陽は本領発揮しておらず、気温は涼しい。少し汗をかいたけど、擦れる部分が気になる程度だ。さっさと冷房の効いた室内に篭ろう。
ここでの出会い が今後の夏休みを左右すると言ってもいい。
有意義に過ごし、その波にのるのだ。
ここの図書館は、去年工事が行われて様変わりした。これがアート建築かと始めはその姿にウキウキしたが、正直、この街にこれほど相応しくない建物もないだろう。
外も広く駐車場が確保されていて、子供用の遊具まで設備されている。近くに川が流れていて、それに沿ってランニングコースが敷かれていた。
少なくともわたしに必要なのは、出会いであって設備ではない。むしろ、古ぼけた図書館での出会いの方が雰囲気ありません?あー捗る。
それはいいと、図書館の入り口に向かった。
中に入ろうとする直前、入り口に向かって右、川の流れるランニングコースへとすこしあがる階段の近くで、小さな女の子がしゃがみこんでいた。
その女の子は水玉のワンピースを着て、麦わら帽子を頭にのっけていた。水色の線の細いサンダルが、やけにわたしのこころを擽る。
周囲に保護者らしき人物は見当たらない。
わたしはどうしても気になって、その子に声を掛けてみることにした。
「ねぇ、なにしてるの?」
彼女はピクリとも反応しない。なにかを持っている。猫じゃらしだ。
その辺の草は今朝刈られたのか、その一つを拾って揺らしている。
彼女はわたしの方を振り返った。麦わら帽子で威嚇されている(襟巻幼女)。
眉が濃く、大雑把にかたどってある。眼はそこまで大きくないが、まつ毛が異様に長い。鼻は小さくて、色の薄い唇がほんの少しだけ開いて前歯が覗いた。
彼女は、わたしに向かってなにか、告げた。
「草の血の匂いがする」
わたしの首元から声がしているのかと瞬間、寒気がした。
ほんとうに彼女が口に出したのか、あるいは過去の映像が蘇ってきたのかはわからない。
しかし、その言葉はこころの内側で、わたしという中心にとってかわろうと追い立てるようで、冷たい恐怖を与えた。
彼女は元に戻り、またその辺に落ちている草どうしを結んだり、砂を払ってみたり、並べてみたり、虫にちょっかいをかけたりするのだった。
わたしは不思議な気持ちになった。この子は、何を感じている?悲しんでいるのだろうか。
それとも男の子のように「ワッハッハ、俺様が最強なんだぞ!」といった風に自分より弱い生命を薙ぎ払って悦に浸っているのか。
彼女の横顔には表情が読み取れない。今度は騒ついていた。自分という存在がこうも簡単に揺れ動いてしまう。
人が、一方的に"彼ら"を刈り取る姿を想像した。惨殺する。"彼ら"にも大切な家族がいるかもしれない。どこまでも、想像は巡っていく。
わたしの豊富な妄想力は、この子によってその覆う色彩を書き換えられてしまった気がした。
歴史もの、ホラー、ダークファンタジーといった 今までの楽観的で華やいでいて、自分本位なものではない方向へ一瞬で転換した。
この子の横に並び、わたしは一緒になってそこ横たわる彼らの"骸"を綺麗に並べていった。
わたしも帽子を持ってくるんだったと、しばらくして後悔した。