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世界の終わりとリノの旅  作者: 今井ヤト
episode 1 現在〜閉ざされた街〜
9/24

◇8 砂糖より甘い



 閑散とした街アンタイトル。子供達が寝静まった夜。


 昼間、太陽の下でしっかり干されたであろうベットマットはわずかに深緑の匂いがする。


 中々寝付けずにいるリノは風を浴びようと起き上がり、その足でバルコニーに出るとオリヴィアが同じように涼んでいた。


 隣のオリヴィアの部屋のバルコニーとは低い柵一つで隔たれていた。

 柵に腕を置き街を眺めていたオリヴィアだったが、リノに気づくと向き直り言った。


「奇遇ですね。どうですか。少しお話でも。」


「ええ。」


 夜風が木々を通り過ぎ、ざわざわと音を立てる。

 静寂の中、まばらに光る街の明かりは、まるで幼少期に見た蛍のように輝いている。


「リノさんの料理大盛況でしたね。」


「僕は蒸しただけですけれどね。素材がいいんですよ。」


「フフッ。あ、そうでした!私の事は呼び捨てでお願いします!敬語は使わないでください。」


「え、どうしてですか?」


「どうしてもです!」


「でも・・。」


「いいんです。敬語を使われる事が慣れてなくて。親しい人には呼び捨てで呼んで欲しいのです。」


「じゃあ、オリヴィアさんも僕の事を・・。」


「オリヴィア!」


「え!?あぁ・・・。」


「オ・リ・ヴィ・ア!」


「オリヴィア・・・。」


「はい!なんですか!リノさん!」


「・・・そっちは敬語なんだな。」


「えぇ。私はこっちの方が話しやすいので!」


「そういうものかね。」


「そういうものです。」


 オリヴィアは後ろに手を組むと、少女のような無邪気さを見せた。


 リノは終始たじろいでいた。


「なぁ・・・オリ・・ヴィア。聞いてもいいか?」


「はい、なんでしょう。」


「これは予想でしかないのだけれど・・・ここにいる子供達・・・親がいないのか?」


 オリヴィアは少し目を細める。深く息を吸い、答えた。


「そうですね。いません。誰一人として。」


「そう・・か。なんとなく理由に察しはつく。あの子たちも、西洋連合国の奴らに・・・。」


 オリヴィアは無言で頷く。


「・・・。私がこの街に来たのは四年前。当初、街に子供は一人もいませんでした。ですが、ある時を境に子供が次々と連れられてきたんです。」


「ある時って?」


「初めて西洋連合国の人々が街にやって来た日です。私がここに連れて来られて一年の間は、西洋連合国の方はやっては来ませんでした。一年が経過して、子供が連れてこられた時、私は自分の使命を理解しました。それが修道院で子供に勉学を教える事、そして生活保護です。」


「生活の保護。要は親代わり。・・・子供たちはオリヴィアが一人で?」


「いえ、同じく職令を与えられたカミルダという方もここの修道院に住み、子供たちの面倒を見ています。今日は旦那さんが暮らす家の方に帰っていて、ここには不在なのですが。」


「そうか。・・・これも当然のことを聞くのかもしれないが、やはり子供達の眼にはNVRがつけられているのか?」


 リノは眉をひそめる。


 オリヴィアの白金色の髪が唐突に吹いた風でふわりと浮いた。


「・・・はい。つけられています。全員眼球にはNVRコンタクトレンズが入っています。」


「そうか。昔は一定の年齢にならなければ手に入らなかったのにな。今は幼児ですら強制的に装着させられると聞いたことがある。そしてそれは・・・。」


「はい。外せません。いくら目を擦っても、眼球を指で詰っても。NVRは張り付き続けます。」


「・・・。」


「私は疑問に思っています。なぜ、私たちはこの街に隔離されているのでしょう。階級付けをされるのでしょう。NVRによって作られた幻想の街。物に触れればそれが幻想であるかはわかります。子供たちの眼にはどのような風にこの街が映っているのでしょう。街になにも起こらないというのはとてもいい事なのですが、これから先どうなるかはわかりません。とても不安です。」


 オリヴィアは街を見つめ、呟いた。


「その点は僕も考えていた。五百人の人々を街に隔離し西洋連合国はなにが目的なのか。職を与え、生活をさせる事で人々の反乱を防ぐ。集められた人の中には家族と離れ離れになった人もたくさんいるだろう。それを諦めさせるのではなく、慣れさせる。人間の心理を奴らはよく知っている。そして案の定、街の人たちはこの生活に馴染んでいる。対応しようとしている。けれど僕はそれが理想とは到底思えない。」


 オリヴィアはリノの話を時に相槌を入れ聞いていた。その瞳は微かに潤い、小さな肩は震えていた。



「・・・。実は明日の夜、一年に一度の西洋連合国の方が街にやってくる日なんです。」


「本当か!?僕は西洋連合国民なんて見たことがない。街の皆も・・・。」


「えぇ、誰も知りません。私しか。」


「なんでそんなこと。」


「子供を連れてくる周期が一年に一度なんです。二年前にはココやミナ。一年前にはハルクが連れてこられました。毎回共通して同じ日なんです。」


「それが・・・。」


「そう、それが明日の夜。七月十三日なんです。」


 リノは自らが酷い緊張感に包まれていることを肌で感じた。

 時に平坦に、特に感情的に話すオリヴィア。


「西洋連合国の方から、少しでも情報を聞き出す為には明日、接触するしかありません。」


「そうだな。一年に一度の機会。ってことだよな。」


「私はこの日がとても怖くて、毎年前日の夜は一睡もできなくなってしまいます。だからリノさんを呼びました。どうしようもない性格ですよね。・・・もちろん、出会ったのは偶然ですけれど。」


「・・・そうか。時間は少ないが明日、しっかりと計画を立てよう。」


「ありがとうございます!正直、リノさんならそう言ってくれると勝手に期待してしまっていました。すみません。なのでせめても今日は早めに休んで下さい!」


「・・・あぁ。わかった。」


 リノはそういうと室内へ戻りベッドに仰向けで寝そべった。






「寝れるわけがない。」


 リノは一度、用を足すために部屋を出て行った。

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