◇7 ミスターチルドレン
「リノー!美味しい!とくにねー!にくじゃがー!」
「それはオリヴィアさんが作ったからな。アルは大きくなるためにいっぱい食べろよー!」
「はーい。食べるー!」
アルはそういうと、次々とおかずを平らげていった。
中性的な顔立ちのアルは小柄な男の子で今年で十歳になるとリノはオリヴィアから聞いていた。
勢いよくご飯を食べるのだが、椀をしっかり持っていて行儀が良い。
「ココ!まだ口の中に入っているだろ!次のおかずを口に入れるな!はしたないぞ!」
「だってー。おいしいんだもーん。」「リノー!こっちの冷たいスープも甘くておいしー!」
「ビシソワーズな。それもオリヴィアさんが作ったからな。ココはもう少しゆっくり食べないとこぼすぞー。」
「だいじょうぶー!食事のマナーは先生に教えてもらってるからー!」
えくぼが特徴的なココは八歳の女の子。活発で声がやたらと大きい。
男の子が四人に女の子が六人。
各々の年齢は様々で、もし小学校があったら、一年生から四年生の間だろうか。
小学校がないこの街では、修道院で勉強を教える事が義務となっている。
全校生徒が十人しかいないのだから、リノが通っていた小学校とは雰囲気がとても異なっている。
端的にいうと笑顔と自由が溢れていると言うべきか。
「ねーリノが作ったのはー?どれー?」「どれー?」「どれだー?」
「僕が作ったのはこれだよ。蒸したじゃがいもとバター。略してじゃがバタ。」
「・・・なんか普通。」
アルを筆頭に普通。地味。の大合唱が院内をこだまする。
「料理で大切な事は、見た目よりも味です。愛情を注いで蒸したこのジャガイモは、きっと美味しいはずだぞ?」
子供達複数人の目は、珍しく何かを疑うような眼差しだったが、ココが一口目を運ぶと、次から次に子供達は群がるようにほおばっていった。
「「おいしーい!!!!」」
「「ただのジャガイモなのにー!」」
「「リノすごーい!」」
子供達は眼を輝かせている。
「素材がいいからな。僕の友達にジャガイモ作りのプロがいてな。そいつが作るメークインはマジで美味しい。」
「「そうなのー?リノの友達すげー!」」
子供達は大賑わいだ。
「あの・・・リノさん。是非そのお友達紹介してもらえませんか?私も素材の味に感動しました。」
オリヴィアは右手を頬に当てご満悦だ。
「ええ。もちろんです。」
リノは喜んで承諾をした。美味しいと言っても毎日同じものを食べるのは心が参ってしまう。オリヴィアが貰ってくれれば子供達も食べれて万事解決だろう。
「そうだ、リノさん!是非今日は、泊まっていってください!空いてる部屋もいくつかあるし、子供達もリノさんがいてくれた方が喜ぶと思います。」
「「リノ泊まるの—?」」「「一緒にお風呂はいろー!」」
相変わらず断れない性分を持ち合わせていたリノ。
「そう・・・ですね。では、今日はそうさせてもらいます。」
リノはオリヴィアに促される形で修道院に泊めてもらうことになった。
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数字が英表記された時計の針はすでに七時を示している。
食べ終わった食器を皆で片づけ、浴室でお風呂に入ると子供達はそのまま寝室へと向かった。
「今日はみんな修道院に泊まる日なのか。」
リノはオリヴィアから案内された角の部屋に入る。姿見とベッド。ウッド調のテーブルが一つ。物は少なく殺風景だが、清掃は行き届いており清潔感があった。
窓の外を見ると、満月の光が白々と辺りを照らしていた。
リノは自分の家の窓から見える一面畑の景色とは違う光景に少しドギマギした。