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世界の終わりとリノの旅  作者: 今井ヤト
episode 0 〜現在から5年前の話〜
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想い



 一体全体、何が起きたって言うんだ。

 ()()が起きたという事は理解できるが、()が起きたかは理解できない。


 地鳴りのような轟音が脳をめがけて響き渡り、鼓膜を指すような甲高いサイレンの音が心を不快にさせてくる。


 まるでハリケーンのように呼吸を遮る程の風が、広がった海面を押し上げ、一本の線になった大波が徐々に徐々に近づいてくる。


 振り返ると、走ってゆく大人たちの背中がいくつも見えた。砂浜に足を取られて転倒する人。二本の手を足のようにしながら、獣のような四足歩行で逃げる人。


 ふと、視界の隅に米粒のように小さな何かが動いた。


 ――近づいてくる。


 それは段々と大きくなってゆき、僕の頭上数メートルの所を一瞬で通過していった。


「――飛行機。」


 けれども、僕が知っている飛行機とはとても違う。未使用の消しゴムのように真っ白でなければ、鉛筆のように尖った鼻先ではなく、代わりにプロペラがついていた。


 飛行機は僕を追い越す。その先は――。


 まるで夢のようだった。悪夢のような夢だ。



「――町が燃えている。」


 町が燃えていた。

 僕が生まれ育った町が燃えていた。

 山も。森も。家も。


 ゆらゆらと漂う海面にオレンジ色が映っている。


 温風が肌をかすめ鳥肌が立つほど気持ちが悪い。


「さっきまで、普通に花火を見ていて――。」


 僕は、駆け出した。

 履いていた下駄は何処かへ行ってしまったみたいで、貝殻やガラス片か何かが足の裏を割いたようだが、痛みは感じない。


 僕は幼馴染を探した。

 この砂浜まで一緒にきていた幼馴染を。


 程なくして、灯台の下、明かりも照らさぬテトラポットの近く、一つのシルエットが見えた。


 僕は少し落ち着きを取り戻した。

 彼女に会えたことと同じぐらい、一人でいる事の恐怖から解放されることが嬉しかったのだ。


 僕は、声を掛けようと息を吸い込む。


 早く逃げようと。ここから逃げようと。


 そう、伝えたかった。



 ただ、その一言だけ伝えたかったんだ。

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