想い
一体全体、何が起きたって言うんだ。
何かが起きたという事は理解できるが、何が起きたかは理解できない。
地鳴りのような轟音が脳をめがけて響き渡り、鼓膜を指すような甲高いサイレンの音が心を不快にさせてくる。
まるでハリケーンのように呼吸を遮る程の風が、広がった海面を押し上げ、一本の線になった大波が徐々に徐々に近づいてくる。
振り返ると、走ってゆく大人たちの背中がいくつも見えた。砂浜に足を取られて転倒する人。二本の手を足のようにしながら、獣のような四足歩行で逃げる人。
ふと、視界の隅に米粒のように小さな何かが動いた。
――近づいてくる。
それは段々と大きくなってゆき、僕の頭上数メートルの所を一瞬で通過していった。
「――飛行機。」
けれども、僕が知っている飛行機とはとても違う。未使用の消しゴムのように真っ白でなければ、鉛筆のように尖った鼻先ではなく、代わりにプロペラがついていた。
飛行機は僕を追い越す。その先は――。
まるで夢のようだった。悪夢のような夢だ。
「――町が燃えている。」
町が燃えていた。
僕が生まれ育った町が燃えていた。
山も。森も。家も。
ゆらゆらと漂う海面にオレンジ色が映っている。
温風が肌をかすめ鳥肌が立つほど気持ちが悪い。
「さっきまで、普通に花火を見ていて――。」
僕は、駆け出した。
履いていた下駄は何処かへ行ってしまったみたいで、貝殻やガラス片か何かが足の裏を割いたようだが、痛みは感じない。
僕は幼馴染を探した。
この砂浜まで一緒にきていた幼馴染を。
程なくして、灯台の下、明かりも照らさぬテトラポットの近く、一つのシルエットが見えた。
僕は少し落ち着きを取り戻した。
彼女に会えたことと同じぐらい、一人でいる事の恐怖から解放されることが嬉しかったのだ。
僕は、声を掛けようと息を吸い込む。
早く逃げようと。ここから逃げようと。
そう、伝えたかった。
ただ、その一言だけ伝えたかったんだ。