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ファスタールにて

朝の冷たい空気で目が覚めた。


まだ瞼が重くて動く気にはならないが、今日は昨日作った傷薬を売りに行かなねばならない為、毛布をズラして無理矢理意識を覚醒させる。

寝室にある明かり取りの窓からは、弱い日差しが射し込んでいた。

どうやら、今日は曇りらしい。


ベットから抜け出し、台所で顔を洗い椅子に座る。くぁ、っと欠伸をしながら後ろ頭をポリポリ搔く。


テーブルの上には、傷薬の入った袋が1つ置いてある。これをギルドまで売りに行き、少しでも生活費を稼がなければパンさえも食べれなくなってしまう。


アルの家は、[ファスタール]と言う街から5分くらい歩いた所にある二階建ての家だ。両親が、夜騒がしいのが嫌いでゆっくりと眠れる所がいいと街の家貸しに相談した時に、丁度この家が空いていたらしい。

アルの父親は、借りるのは好かんから売れ!と、家貸しに半ば脅すように頼んだらしい。詳細は知らないが、何だかんだあってこの家を手に入れたそうだ。


ちなみに、二階は物置(倉庫と言わないと怒られる)だ。使わなくなった小物やら、錆びたナイフや釘なんかが置いてある。


水で黒パンをふやかして食べた後、ファスタールまで腹ごなしがてら歩かないといけない。今日のアルの格好は、薄い緑色の上着に茶色いズボン、肩から腰までの紐付きの袋、

護身用のナイフをズボンとベルトの間に挟み準備完了だ!


護身用といっても、ファスタールはそれほど治安が悪いわけでは無いし、街道にも魔物は滅多に現れないから、本当に一様持っていくだけだ。

アル自身幼い頃は、少し重いしいらないと思っていたのだが、父親から「人生いつ何時何があるか分からんから用心するに越したことはない」と、無理矢理持たされていた。

小さい頃からそう教わってきたので、最近は腰に重みがないと落ち着かなくなっている。


アルの家からファスタールまでは、小さな小川が流れているどこにでもある様な街道を歩いて行くだけだ。整備もされていて、馬車がすれ違う事も出来るくらいに広くて見通しもいいし、冒険者や騎士団などもファスタールを目指して街道を使っている為、盗賊が現れる心配も無い。


アルは、家の戸締りを確認して街道を歩いてファスタールへと向かった。


いつも通り、何事もなくファスタールへとたどり着いたアルは門番に通行証を見せて喧騒に溢れる街中へと入っていく。


アルが初めてファスタールに来たのは、父親と一緒にギルド証明書を作る為に来た10歳頃だ。石造りの門の両端には、槍を持って誰何をする門番、見上げるほどの櫓はどれくらい高いのだろうかと疑問に思っていたら、腕を引かれて街の中へ。

すぐに、あちこちから客寄せの声が響き屋台からは、いい匂いが漂ってくる。串焼きやスープを食べる人達を見て涎がどんどん溢れてきたもんだ。

歩くのを止めると、父親に怒られる為後ろ髪を引かれながらも何とか我慢しながら歩いていると、噴水のある広場に出た。

ここから、東西南北に道があり「北の鍛治通り」「東の宿屋通り」「南の露店街」「西のギルド街」へと行ける。


街へ入るには、東門か西門のどちらかしかない為、東門から入った場合は広場を直進すれば迷わずにギルド街へ行くことが出来る。季節毎に様々な色合いの花が咲いている広場を通り、[商業ギルド]と書かれた看板がある建物の前まで来た。


商業ギルドと聞いていたので、どれだけ大きい建物なのかと思っていたが案外小さい三階建てくらいの建物だった為親近感を覚えたほどだ。


「昔と変わらず入りやすい建物だよなぁ。まさか、こんなに世話になるとは思わなかったけど」


昔の記憶と現在の景色があまり変わらないギルドを見て苦笑いする。


天気の良い晴れた日には、木製の扉は開かれている事が多いのだが曇り空の今日はまだ寒い為閉まっていた。

アルは扉を押して中へと入り、左側にある買取カウンターの方を見る。

今は、男性1人と受付嬢が話しているのできっと商談の手続きをしているのだろう。

話が終わるまで暇なので、掲示板を見ておく事にした。


商業ギルドの掲示板には、買取価格が上がっている素材や薬、街の外での異変や注意が書かれている。

商人にとって、情報は命。最近の流行り物の話から、眉唾物かもしれない噂話まで、どんな事から商売に関わってくるかわからないからだ。


「お、買値が少し上がってる」


掲示板には、ポーション類品質次第で銀貨3枚上乗せ、傷薬品質次第で銅貨1枚上乗せ(3個以上まとめて買取の場合銅貨1枚上乗せします)と書かれていた。


5分くらい掲示板を見ていると、カウンターにいた男性がギルドを出て行くのが見えたので、アルは買取カウンターの方へ歩いて行く。


「すいません、傷薬の買取をお願いしたいんですけど」


アルはギルドカードをカウンターに乗せながら、受付嬢に話しかけた。


「いらっしゃいませ。アル様。傷薬の買取でございますね、少々お待ちください」


受付嬢はそう言うと、カウンター下から買取手続きの為の書類を準備し始めた。


「お待たせ致しました。それでは、傷薬の品質と個数を確認させていただきます。こちらのトレーに1個づつ乗せていってください」


買取カウンターにある魔道具を使って買取品の鑑定をしてもらう。

今はもう慣れてしまったが、最初に見たときは魔道具というだけでカッコイイと子供の頃に思ったものだ。


鑑定の結果は、良くも悪くもない普通の傷薬だった。新緑樹の雫を使った物ならば、銅貨の上乗せもあったかもしれないが、今回は3個以上まとめて買取の銅貨1枚上乗せのみ。

合計で、銅貨5枚になった。


受付嬢にサインした買取書と傷薬を渡して、銅貨を受け取りポケットに入れている小袋にしまう。


用も済んだし、ギルドから出ようとした時に入り口の扉が開かれ体格の良い男が入ってきてカウンターにいる俺のところまで歩いて来る。


それだけで、俺はプチパニックに陥ってしまった。情けないが、ムキムキで強面の男がズンズンと自分に迫ってくるのである。人と話したりするのが得意な方ではない・・・いや、超苦手でましてやただの一般人のまだ子供(あと、3ヶ月で大人だが)にビビるなという方が無理な話だ。


アルは、ヒィと掠れ声を漏らしながら場を譲った。






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