表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

アル・グラッゼ

「お金がない」

テーブルにある小袋から、お金を取り出して並べてみる。

金貨が1枚と、銀貨が5枚。

あとは、ズボンのポケットに銅貨が3枚ある。


「これは不味い事になってしまったぁ」

テーブルに突っ伏して、現実逃避したい気持ちに負けそうになる。


アル・グラッゼ 14才


職業 [無職]


未祝福 未鑑定[職業不明]


「あと、三ヶ月で俺も15才になる。そうすれば教会で最適職が何かわかるはずだ・・・。そうすれば稼ぎだって良くなるはずなんだ。だからって!!あと、三ヶ月を銀貨5枚で過ごせってか!無理!ムリムリムリムリムリ〜」


薬草臭い小さな部屋に、アルの声だけが響く。

アルの両親は、一年中大陸を端から端へ飛び回る商人をしている。

その為、ある程度の生活資金を残していくが一年に3回会えたら多い方だ。


今のアルの主な仕事は、薬草を調合して傷薬を作りギルドに納品する事。

昔、興味本位で父親の商品である薬学書を読んだ時に、簡単な傷薬や胃腸薬・睡眠剤といったレシピを覚えた。

一般的に、薬の調合なんて素人が簡単に出来るものじゃないが、アルは7歳で暗記してしまった。

しかも、一度読んだだけでである。

その後、父親に商品には触るなと怒られはしたが、何故か嬉しそうでもあったのを、覚えている。


ボケーっと、昔の事を思い出していると焦げ臭い臭いが部屋の中に漂ってきた。

アルは、ハッと意識を覚醒させて台所の鍋まで走って行った。

台所に着くと、中くらいの鍋からブスブスと嫌な音がしている。

急いで魔導コンロのスイッチを消したが、鍋の中は真っ黒になっていて、最早何を作っていたのか分からなくなっていた。


「嘘だろ・・・」


真っ黒な鍋を見ながら、ハァとため息をつく。


「鍋を焦がすなんていつ振りだ?よりにもよって、金欠の今じゃなくてもいいじゃないか」


台所のガラス窓を開けながら、自分に落胆する。

今朝取ってきたばかりの新緑樹の雫を、薬草と一緒に入れて煮込んでいたのだ。

新緑樹は、街の外れにある魔水湖の近くにある、新緑樹の森に群生している。

そのため、新緑樹から取れる朝露には魔素が少なからず含まれているのだ。


新緑樹の雫は、薬草と合わさることで薬効を高め、1ランク上の傷薬を作ることが出来る優秀な素材だ。

コップ1杯の量で、銅貨2枚分にもなる。


銅貨1枚で、黒パンが1個買えるから、1瓶分売れば、1日の食事を賄える。


今回の鍋の中身は、新緑樹の雫が五杯分と薬草5束。

金額にして、銀貨1枚と銅貨5枚分。

約一週間分の食費がぶっ飛んだわけだ。

これは、かなりの痛手である。

神殿での鑑定額が金貨1枚なので、使えるお金はほぼ無い。


そんな事を考えながら後片付けをしていたら、グゥ〜っと腹の虫が鳴いた。


「腹減ったなあー。流石に、3日間黒パン2食じゃやる気も起きない、元気も出ない。極め付けは鍋を焦がすとは。厄日だな今日は」


今の時刻は、13時を少し過ぎた頃だ。

本来なら、この後傷薬を薬瓶に移す作業があったのだが、鍋を焦がしたのでやることがなくなってしまった。


何をしようかと、台所のテーブルを見る。


昨日、採集した新緑樹の雫は使い切ってしまったが、薬草はまだある。

一様、薬草同士を調合して傷薬を作ることも出来るが、薬効はそれほどでもないので売っても余りお金にならない。


しかし、今は少しでもお金が欲しい。

アルは、悩んだ末に薬草を調合することに決めた。


3時間後、やっと5個傷薬を作ることが出来た。

台所から外を見ると、もうすぐ夕方になる頃だろうか、木々の影が長く伸びていた。

座ってる椅子にもたれ掛かるように、うぁ〜っと、変な声を出しながら背伸びをした。


「明日は傷薬をギルドで売るとして、全部で銅貨4〜5枚くらいになればいい方か。このままじゃ、栄養足りなくて背が伸びるどころか縮むんじゃないか?ハァ、とは言ってもスープなんて夢のまた夢か」


傷薬を薬瓶に詰めて蓋をする。

今日はもう出来ることが無いので、早めに夕食を食べる事にした。

アルは、台所の棚から黒パンを出して食べながら、明日の予定を決めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ