what's tha ××××!
満天の星空に、真円の月が眩しすぎるほど輝き、暖かな風は緑の香りを織り交ぜながら頬をくすぐる。ほんのり湿った綺麗な空気は、僕の鼻と喉を潤し、今僕が発することの出来る精一杯の思いと共に口から吐き出された。
「What's tha fack!?」
なんじゃあこりゃぁ!?意味がわからん!
さっきまでジュネーブの地下トンネルに居たはず。だが今は明らかにスイス感ゼロの鬱蒼とした森の中に居る。
何が起きた。夢オチ?夢オチなら僕は今LHCのど真ん中で寝ているということか?いや、逆に今までが夢で、今目覚めた?なら僕は今どこに居る?
いや、非現実的だ。科学者の端くれなら科学的な仮説を立てよう。
まず、ここがどこかだ。辺りは暗闇だが、木々の間から月明かりが漏れているおかげで足元が見えた。生い茂る草の中に先ほどシロバナタンポポが見えた。シロバナタンポポは日本の在来種、しかも関東よりも西に分布し、西に行くほど多くなる。という事はここは日本、しかも西日本の可能性が高い。あり得ないことだが。
仮にここが西日本として、今なぜ僕がそこに居るのか?スイスから日本まで9000㎞以上ある。夢オチ以外の可能性を考えるなら、一つは僕が幻覚を見ているという可能性。もう一つはスイス~日本間を何らかの力でテレポートしたという可能性だ。…どちらにしろ非現実的だった。
とりあえず森を抜けよう。情報が無さすぎる。人を見つければ後はどうにでもなる。幸い水が流れる音がする。どんな生き物でも水が無くては生きては行けない。逆に言えば水が在るところには文明があるはず。ここがどこであれ、川沿いに下流へ歩けば人里に出るだろう。
その考えは正しかった。程なくして川を見つけ、下流へ歩き出すとすぐに朽ちたロープや山小屋の廃墟を見つけた。この分ならすぐに人家も見つかるだろう。そう思い藪を抜けた時だった。
もふっ。
モコモコの暖かい何かに顔から突っ込んだ。何だこれ?暗くて分かんないけど気持ちいいな。やべっ、モジャモジャが口に入った。ナニコレ獣臭い。獣臭い?なんかグルグル言ってるしなんなのこれ?
顔を離すと月明かりに照らされ"それら"が見えた。 "それら"は総数20頭は超すであろう野犬の群れだった。
どんな生き物でも水が無くては生きては行けない。その考えは正しかった。