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閑古鳥の鳴く宿場と猫の手も借りたい村

 旅の一行は次の宿場町を目指す。

 こちらはまだ建設中だ。


「あ、お館様」


 最初に気づいたのは今や若き棟梁としてなかなかに親方の風格を身につけ出しているジャスである。

 なかなか目ざといな。

 普段から目配り気配りしているんだろう。

 やるじゃん。


「順調かい?」


「ぼちぼちってとこですね。それより、ご視察ですか?」


「いやいや、隣村のその先まで行く途中なんだ」


「面白そうですね」


「楽しみではあるけどな」


 ここは長居しても邪魔になるだけだろうからとジャスと軽く打ち合わせをして隣村へ向かう予定でいる。


「なるほど木賃宿ですか」


「そう。うちの町ではもうみんなそれくらいの金を持ってるのが当たり前になっていてすっかり失念していたんだけど、田舎の村ではお金なんて滅多に見るものじゃなかっただろ」


「確かに」


「じゃあ、適当な感じで頼むよ」


「判りました。それはそうと、ここのところ移住者が減ってますけど、なにがあったんでしょうね?」


「ん? 減ってるの?」


「ええ、こっちの建設始めてから一度も来てませんよ。まぁ、仕事がはかどるんでオレとしてはありがたいんですけどね」


 そういえば、前の宿場でも僕らが最初の客だって言ってたな。

 なにかあったんだろうか?

 町の人口飽和もあるし、確かに今のところは助かる現象だ。


「まぁ、その件は調べてみるよ。ところで、ジャスからみて、ジャスの代わりになりそうな大工はいるか?」


「え? オレ、棟梁クビですか?」


 あ、ビビらせちゃった。

 まったく言葉足らずにも程があるな。


「ああ、すまん。ジャスには任せたい仕事があるんであとを任せられそうな人員を確保しておいて欲しいんだ」


「嬉しいこと言ってくれますね。筋のいい奴が二、三人いるんで試しにここの建設やらせてみます」


「よろしく頼むよ」


 建設現場を後にして、僕らは隣村へと急ぐ。

 まだ日も高いうちに田園地帯に入ることができた。

 おお、順調に生育しているみたいだ。

 ん?


「雰囲気が変わっていますね」


 オギンがホルスを寄せてささやいてきた。

 やっぱりそうだよね。


「あ・ジャン様」


 と、可愛い声で呼びかける声がする。


「お、アニーじゃないか。畑仕事の手伝いかい?」


「はい」


 素直ないい子に育っているじゃないか。


「ああ、お館様」


 やりとりに気づいたヘレンが、作業を中断して近寄ってくる。


「ご視察ですか?」


「まぁ、それも兼ねているかな?」


「主人は代官屋敷におります」


 と、僕のホルスのくつわをとって先導をしてくれる。

 アニーは、木陰で寝ていた妹のママイを抱いて後をついてくるようだ。


「畑は順調のようだな」


「おかげさまで。今のところみんな主人の言うことを聞いてくれていますし、人手も増えておりますしね」


 言葉遣いが随分ときれいになったねぇ。

 初めて会った頃はもっとこう蓮っ葉な感じがあったけど、今じゃすっかり代官様の奥方だ。

 それはいいとして、ずいぶんと歯にものが挟まった言い方というか……ん? 人手が増えた?

 村に入って代官屋敷に到着すると、ヘレンさんたちは勝手口へと消えていく。

 僕らは正面玄関からおとなう。

 迎えに出てきたのはルダー本人。

 相変わらず百姓然とした感じだ。

 なんかほっとする。


「これはこれはお館様、ようこそおいでくださいました」


 相変わらず芝居くさい。

 人目のあることを意識しているようなんで、僕もその芝居に乗っておこう。


「報せもなく立ち寄ってすまないな」


「いえいえ、お気遣いなく。お館様はご領主様なのですから、ここを我が家だと思ってお使いくださいませ」


「では、遠慮なくそうさせてもらおう」


 一連のやり取りでこの村の住人に上下関係を知らしめようという目論見は成功したんじゃないかな?

 屋敷に入ると何人かの村人がいたようで、全員が屋敷を去っていく。


「なにか問題があるようだな」


「さすがはお館様、慧眼けいがんでございます」


「芝居くさいのはもういいよ」


「結構気に入ってるんですがねぇ」


「お館様」


 全員を見送ったイラードが、出てきた。


「なにかやったろ」


 イラードは頭をかくだけで答えようとしない。

 やったもなにも、村には人が増え、新しい家がいくつも建っていた。

 なるほど、町を目指して各地から来ていた人たちをここにとどめていたのか。

 そりゃあ宿場に人が来るわけがない。


「お館様。立ち話もなんですから、奥へどうぞ」


 ルダーが促すままに奥の部屋へと案内されると、ヘレンが気をきかせて冷たい水を用意してくれていた。

 一息ついたところで単刀直入にイラードに訊ねる。


「で? 人を増やすと村長を降ろせるのか?」


「ワタシの思惑がお判りになられたのですか」


 ただ単に町の人口を抑制するための処置とは考えられないからね。

 一度破壊された僕の村と違って、ここは日々凡々と暮らし続けていた村だ。

 前世日本のような強烈な排他的村社会ではないにしても、閉じたコミュニティだったはずのところに他所よそものを招き入れている。

 それも支配者代行とはいえ他所者がだ。


「詳しく聞こうじゃないか」

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