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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
戦わなければ生き残れない!
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後手に回らざるを得ず

 寝坊した。

 一応捕虜のルビンスの世話をしているクレタにもののついでに起こされた。

 体がだるい。

 加速の魔法による疲労が抜けていないのだ。

 開戦三日目、今日は正念場だというのに大丈夫か? これで。

 一階に降りると、僕の分の食事も用意してくれていた。

 あれ?

 いつもはめんどくさいとか言って用意してくれていないのに、なにがあった?

 雨でも降るのか?

 いや、今は冬だから降っても雪か。


「ルビンスが一緒に食事がしたいからって」


 おやおや?

 ずいぶんとルビンスには甘いな。

 まぁ、いいか。


「話があるのかな?」


 年齢的には彼の方が少し上だが、今は捕虜だし僕はこの町の長だ。

 関係性で少しマウントをとらせてもらおう。


「うむ、昨日今日とあなたの側で今回の戦を拝見させていただいた。その……正直、オルバック家への忠誠心というのも捨て難く思うのだが……確かにあなたの言う通り、各地で争乱が起こるとなればジュニア様では……」


 はっきりダメとは言いにくいよね。


「この戦で判ったのは、あなたが民の命を大事に考えていることとズラカルト男爵軍が兵の命を軽視していることだ」


 さすがは僕が見込んだだけのことはある。

 心の中ではデストラーデばりのガッツポーズをしているけれど、表面上はあくまでも平静にルビンスの発言を黙って聞く姿勢を崩さない。

 交渉ごとで優位性を示すやり方はいろいろあるけど、今はこれが一番だと思うからだ。

 できるだけ表情を柔和に(にやけちゃダメだと言い聞かせつつ)どんなことがあっても受け止めるぞという態度を表すことに努力する。


「──などといろいろ考えた上で、ワタシはあなたの提案を受け入れ、ここに仕えることを誓わせていただく」


 まだなかなかに葛藤があるのがおかしな表現に顕れているけど、そこはいいや。


「ありがたい。こちらこそよろしく頼みます」


 と、僕はルビンスの手をとる。

 立場が上であることを利用して下手に出る。

 秀吉流(ひと)たらし術の一つだ。


「もったいない」


 と、ルビンスが感極まって涙を流す。

 もう一押ししとこう。


「本来ならばあなたのような一騎当千の騎士には早速お働きいただきたいところだが、話によればお父上ルビレル殿が今回は従軍しているとか、さぞ戦いにくかろう」


 一騎当千はお世辞だけれど、正騎士参戦は戦力としては魅力的だ。

 けど、そこまで僕はお花畑じゃない。

 戦場に出して裏切られることだって当然考慮する。

 考慮するけど、それを言葉や態度にして本気で味方についてくれた人間の気分を害することも愚策だと判っている。

 ここは前世の古典知識を最大限利用してやろうって話だ。

 ここら辺は若い騎士には勝味のない交渉術だろうさ。

 いやさ、現世の僕は彼より年下なんだけどね。


「ご配慮ありがとうございます。つきましてはその父、ルビレルを引き抜いてご覧に入れましょう」


 なぬ!?

 僕は知らずに身を乗り出していた。


「実は、父は前々からジュニア様の言動に危惧を抱いておられました。オルバック様の命でジュニア様のお付きになられたあとはことごとに諫言かんげんをなさっていたのですが、それを快く思っておられなかったようで、ここへの二度の出征にはいわれのない讒言ざんげんによって従軍できず私が選ばれたしだいです」


 うん、ヤッチシ、グッジョブ!


「ジュニア殿とはうまく行っていなくても、現当主とは良好なのではないのですか?」


 ルビンスの話によれば、りゅうげん讒言によって立場が危うくなっているのだという。

 おお、効いてる効いてる。

 でも、なにかもう一押し足りない気がするなぁ。

 たぶんそこをクリアできないと、せっかくのルビンスの説得工作も失敗する気がする。


「話は判りました。説得工作は時期を見てお願いしましょう。今日は正念場です」


 僕の表情が引き締まったのだろう。

 ルビンスの表情も険しくなる。

 僕は慌てて微笑みを作る。


「まずは食事を取りましょうか? 腹が減っては戦はできぬと申します」


 ルビンスがポカンとした表情になった。

 あ、これは前世のことわざか。

 食事が終わって、戦場に立つ。

 防御柵には夜のうちに水がかけられていたようで凍っていた。

 火計対策だな。

 これで多少の火矢なら持ちこたえるだろう。

 今日の戦は、絶対総力戦になるから気を引き締めていかなきゃ。

 本日の開戦は予想通り、相手の火矢で始まった。

 やっぱり相手もバカばかりじゃないってことだ。

 弓兵総出で火矢を放ってくる。

 けどまぁ、こっちだって対策はしているわけで簡単に相手の術中にはまるわけがない。

 ないんだけど、凍った柵は火矢であぶられ解けていく。

 解けるだけなら湿った木材なわけでそれはそれで燃えにくいとはいえ、決して燃えないわけじゃないからギラン隊が水をかけたりして消火にあたる。

 間断なく射かけられる火矢はなかなか消せないみたいだ。

 そうこうしているうちにいつもの剣兵突撃が始まった。

 いや、いつもとは様子が違うな。

 慎重に進んでは置き盾を立てて帰っていく。

 チッ、誰の献策だよ。

 僕は弓隊と投石隊に置き盾の設置をできる限り邪魔するように指示を出す。

 うちの飛び道具の手数じゃ邪魔をして設置を遅らせる以上のことは不可能だ。

 その間にも火矢は柵を狙って撃ち込まれているから消火作業も続いている。

 柵の周りが渋滞していて敵の邪魔も消火も思うような成果が出ていない。

 やがて敵の弓隊が前進をして盾の陰から射込んでくるようになると、こちらの劣勢が鮮明になってくる。

 何本もの火矢が突き刺さっている柵がぷすぷすと黒い煙を上げ始めた。


「チャールズ」


「はい」


「前回みたいに雨を降らせてくれ」


 雨が降れば火を抑えることができるはずだ。

 この寒空で兵を雨に濡らすなんて良策とは言えないんだけど、あの柵にはもう少し保ってもらわないとならない。


「はい」


 チャールズは意図を飲み込んで魔法陣を描き黒雲を柵の上に作り上げた。

 ところがだ、降ってきたのは雨じゃなく雪。

 まいった!

 気温のせいで雨が雪に変わっちまった。

 雪じゃ意味がない。

 意味がないどころか兵が凍えて味方にデメリットしかない。

 ええい、早急に次善の策を立てなくちゃ。


「チャールズ」


「はい」


「雪を敵弓兵の上に移動!」


「は、はい!」


 これで次善になるのか!?

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