長浜城の攻防については土佐物語を読んでね
その後の一ヶ月は、そりゃあもう忙しかったですよ。
いろいろ準備もしましたさ。
軍の編成とか土木作業とか。
他にもいろいろやりました。
その間、ヤッチシからの飛行手紙が二度送られてきてた(ちなみに、ヤッチシには十枚の飛行手紙を預けている)。
最初の手紙には軍の規模と出陣の日時が書かれていた。
それによると今回の軍は騎兵二十騎、弓兵五十、剣兵八十。
そして、魔法使いが一名同行しているそうだ。
あ、今回も槍兵がいないな。
こちらは、傭兵出身以外の白兵は全員槍兵に兵装を変えている。
やっぱ、白兵戦は槍最強でしょ。
軍は三隊に分かれていて敵の総大将はバコード。
ズラカルト男爵家で代々軍を束ねる名門の当代当主だそうだ。
とはいえ、男爵領では少なくともこの五十年、戦と言える争いは起きていないってんだからどれほどの指揮をするかは未知数だ。
僕が知っているのは彼がまだ若い頃、ハッシュシ王国との国境紛争に従軍し、勲章をもらったという逸話だけ。
まったく参考にならない。
副将はサバジュとオルバック。
あらあら、ジュニア(苦笑)
もちろんジュニアも従軍しているし、今回はルビレルもいるらしい。
厳しい戦いを強いられるのは覚悟の前だ。
でも、こちらだって手をこまぬいて待っているわけじゃないぞ。
軍が隣村を出発したのをケイロが飛行手紙で知らせてくる。
文字を覚えるほどの時間がなかったので、署名と日付が書かれているだけなんだけど、必要十分だ。
便利便利。
やはり情報は最強武器の一つだよね。
飛行手紙の欠点は、今の所僕の屋敷宛にしか届かないことか。
急ぎで開発してもらったんだからこれは仕方ない。
今回は、この時点でラバナルを呼んだ。
戦が始まるまではチャールズの家にこもっているんだそうな。
そうそう、前回の戦でいいことが一つあった。
野宿に使われていた二箇所のスペースが軍の野営に使われたおかげか、
広く拓かれているそうだ。
今回は倍の陣容だってんだから、さらに拓かれているだろう。
春の宿場建設が楽になる。
ズラカルト様様だ。
それもこれもこの戦に勝てなきゃ意味がないんだけどね。
今回は畑の前に高さ十シャルの柵を設け、その前に戦場予定地として奥行き二十五シャル、幅三十シャル木を切り倒している。
さすがに切り株掘り起こす時間はなかったんでそのままなんだけど、騎兵を自由にさせない障害物としても機能しそうなんで結果オーライってやつだ。
切った木は後で美味しく……じゃなかった、薪および炭にする予定です。
さて、さすがに前回無策にも不用意に姿を現した結果先制を許して敗北した轍を踏むようなこともなく(というか、あれは戦経験皆無なジュニアが酷すぎただけだと思う)斥候を二人放ってきた。
こっちは前回と違って畑には兵を出していない。
敵軍は野営の準備を終えて火を熾したようだ。
煙の距離から移動距離一時間くらい先かな?
物見櫓には左右に二人ずつ見張りに、櫓の下には見張りの交代要員および伝令役として八人を配置、念の為カシオペアの五人にホルスを一頭与えて柵の際まで夜営に出す。
寒いのかわいそうなんで薪をガンガン使わせる。
今は割と余ってるんでね。
前回もそうだったけど、緊張でなかなか寝られないね。
特に今回は向こうの戦力の方が多いから、慎重に指揮しないと負けちゃう可能性も高いからなおのこと神経使っちゃうよね。
そんな夜をじりじりと過ごして、日の出を迎えた。
日が出た後は半時間おきに定時連絡をもらうことになっている。
最初の連絡は日の出の報告。
二度目の連絡は特になし。
三度目の連絡で敵陣の煙が大きくなったという報告がきた。
たぶん飯炊きだ。
腹が減っては戦ができないってよくいうし。
僕は、その報告を受けて出陣を決断。
五度目の報告は中央広場で聞く。
敵陣から煙が消えたという。
うん、敵が陣払いしたんだろう。
「出陣!」
ザイーダの投石隊とイラードの弓隊が先陣として門を出ていく。
ここには最初からラバナルが嬉々として参加している。
次がカイジョー隊だ。
ここには先日の戦で投降した傭兵三人が組み込まれている。
その後に反お館派を集めたギラン隊。
僕の周りには騎乗しているサビーとガーブラ。
オギン、チャールズ、ルダー、捕虜のルビンスとその従者、予備兵として老人組がいる。
残りの女性陣はガブリエルに指揮される救護班だ。
救護班を門内に待機させ、最後に僕の隊が布陣に向かう。
すでにこちらの軍の布陣はあらかた終わっている。
柵の後ろに置き盾に隠れた弓隊。
その後ろにカイジョー隊とギラン隊。
今回は左右に並んで布陣させている。
さらにその後ろにザイーダ隊。
今回は高い柵のせいで投石隊が有効に利用できなくなっているんで、戦力ダウンは否めないかと思っているんだけど、退却戦での支援を中心に考えている。
今回、投石兵だった女性のうち選抜試験で特に技量を認められたクレタ他四名が弓隊に配属されている。
イラードは嫌がっていたけど、弓手は一人でも多い方がいい。
そろそろ七度目の定時報告の頃だなと思いはじめた頃、バコード軍が姿を現した。
先陣は盾を構えた兵だ。
たぶんその後ろに弓兵が並んでいる。
「やっぱり、ちゃんとした指揮下にある軍は壮観だね」
「他人事みたいに言ってますな」
「でも、サビーもそう思わない?」
「そりゃ、ゾクゾクきますけどね」
「お館様、こちらから攻撃しないのですか?」
「不意が打てるなら先制するけど、まずは相手の出方を見ないと」
「味方の兵の方が多いならそれも手だろうが、弱い側がそれでどんな利がある?」
と、ルビンスが訊ねてくる。
「こちらには前線に魔法使いがいるからね」
「理解ができん、判るように説明してもらえないか?」
「んーん……おいおい、な。そろそろ始まる」
ジャンと銅鑼がなる。
あー、あれいいよね。
時間がなくて訓練できてなかったんだけど、部隊の指示はあれがいいよね。
多分、「撃ち方用意」の合図でしょ?
再びジャンと銅鑼がなると同時に柵を越えるように矢が撃ち上がる。
でも、無理なんだなぁ。
だ〜れにも当てられない。
そういう位置に布陣させているから。
大体計算できるのよ、着弾点ってさ。
「さ、僕の長浜城攻防戦の始まりだ」




