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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
戦わなければ生き残れない!
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理想は語ってこそ、実現への努力をしてこそ崇高

 町の畑で戦闘してから十五日、あたり一面に雪が積もって本格的な冬が来た。

 今日はルビンスと町を視察している。

 どんな心境の変化があったのかは知らないけど、町を見て回りたいと言われたので僕が直々に案内することにしたわけだ。

 さすがにお人好しの僕だって「どうぞご勝手に」とはやれない。

 見せたくない部分だってあるしね。

 厳選した視察ルートは以下の通り。

 まずは町の名産として名が売れているらしいダリプ酒の醸造蔵。

 試験的に寝かせている昨年の樽から試飲してみる。

 やっぱり味が落ちてる。

 長期熟成にはもう少し試行が必要なのかな?

 そんなダリプ酒なのにルビンスはうまそうに飲み干した。


「イケる口?」


「ん? うむ、我々程度ではいい酒はなかなか飲めなくてな。ダリプ酒など、主人の晩餐会のおこぼれくらいしか機会がない」


 泣ける。

 いや、これはイケるぞ。

 今年のダリプ酒はまだできてないので飲ませてあげられないけど、もう一つの方なら……。

 僕は、この後予定していた中央広場に出ている市に行く前に焼酎蒸留所へ行く先を変更した。

 ここでは現在、フレイラ焼酎の蒸留が行われていた。

 ポモイトとマルルンは仕込み時期が遅かったので、まだ醸造中だ。

 蒸留原酒に、絞ったダリプ果汁と水を足す。


「こ、これは……」


「うまい酒だろ? 町の次期主力商品だ」


 ルビンスはなにも言わずにカップを見つめている。


「この酒は蒸留酒だから長期保存ができるんだ。こんな酒がどこでも飲めるようになったらいいと思わない?」


「思う。思うが、これは貴族の酒だ」


「貴族だけのものにはしたくないんだ。酒くらい飲みたいときに誰でも飲める世の中がいいべや」


「酒くらい……か」


 この世界……いや、前世世界でも貧富の差は厳然として存在していた。

 現状それを解消するのは不可能に近い。

 でも、だからこそか?

 せめて誰もが食うことだけは困らない世の中にしたい。

 それくらいの理想掲げないと独立の大儀が立たないっしょ。

 その実現のための方策は二つ。

 一足飛びに民主主義を導入するか、僕が絶対王政をくかだ。

 僕は後者をとる。

 前者は民衆の教育と不断の努力が必要だからだ。


「なるほどな……」


 そして、中央広場の市に出向く。

 ここには屋台が並んでいる。

 貨幣経済導入のための市だ。

 自分の得意なことで銭を稼ぐ。

 この王国は農本主義だ。

 封建領主は領土からの収穫物を税として納めさせ、それをもって領土経営にあたる。

 農民に残される収穫物は、翌年畑に撒く種と自分たちが食べる分だけ。

 必要な道具などは自分たちで作る。

 百姓と呼ばれる所以ゆえんだ。

 でも、人には得手不得手がある。

 得意な人に任せる方が能率もいいしクオリティも上がる。

 自分のやりたいことに時間を使える方が町全体としても利益になる。

 ところが物々交換では価値の等価が担保できない。

 そこで価値の基準となる貨幣の出番だ。

 この国にはもともと貨幣が存在している。

 ここは僻地で十分利用されていなかっただけ。

 利用価値を判ってもらうためにも市は重要な存在なのだ。

 貨幣経済が確立して、みんなが農業以外の仕事につけば(もちろんどこまでも農業労働は領民の義務だけど)、農作物はぶっちゃけ一〇〇%徴税できる。

 ま、実際は一〇〇%なんて不可能だけどね。


「まるで異国のようだ」


 と、ルビンスがいう。

 なるほど、この町以外この世界を知らない僕が企画した市は、前世のイメージに強く影響されているのだろう。

 それも悪くない。

 だって、その方が心地いいんだから。


「しかし、民の表情がみな生き生きしているようだ」


「こんなもんじゃないのか?」


「いいや。ワタシの知っている民は、たえず誰かの目を意識して伏し目がちだった」


 あー、お貴族様のせいだな、そりゃ。

 その一員であるルビンスには、そういう側面しか見られなかったってことなんだろう。

 ルビンスは、日が暮れるまで広場の市を見つめていた。

 寒いってば。

 見かねたロットが焚き火を提供してくれたけど、そんなんじゃ足りないくらい寒かった。

 むむむ……冬の市の開催はちょっと考えなきゃダメだな。外で暖を取るなんて燃料の無駄遣いも甚だしい。

 イラードとジョーにも協力してもらって整備計画を立てよう。

 館に戻ってくると、オギンが待ち受けていた。

 ルビンスを客間に戻してくりやに行く。

 そこではクレタが夕飯の支度をしていた。


「僕の分もある?」


「ない」


 素っ気ないな。

 つーか、これから自炊しなきゃなんないのか……いつものこととはいえ、目の前に飯を見ながら晩飯考えなきゃダメとかなんの罰ゲームだよ。


「で? なにがあった?」


 クレタが配膳に出るのを待って話を聞く。


「ヤッチシから飛行エア手紙メールが届きました」


「飛行手紙?」


 飛行手紙は僕がラバナルに糸電話と一緒にお願いして開発してもらった魔道具だ。

 皮紙に魔法陣を書いてもらい魔力を流しておく。

 それを発動条件となる紙飛行機に折ったら後は飛ばすだけ。

 するとあら不思議、紙飛行機は目的の場所に飛んでくるっていう優れものだ。

 チャールズと一緒に嬉々として開発に勤しんでいたのを知っている。

 二人の有能さもさることながら、僕の先見の明もなかなかだね。


(自画自賛)


(うるさい、リリム)


 その手紙を読むと、懲りずに軍が召集されているという。

 どうやら前回の倍以上、百五十人規模を計画しているらしい。

 それはヤバイね。

 もう、ちょっとした小競り合いの域を超えたれっきとした戦争だよ。

 こっちの被害も相当に覚悟しなきゃならないレベルだ。

 ヤッチシの見込みでは、到着予定は一月後くらい。

 準備期間が確保できるのはありがたいんだけど……はぁ、また会議か。

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