お館様は忙しい(主に頭脳労働で)
「率直に言って今のままでは我が町も安泰とは言いがたい。いつまでもここにいてはジリ貧で、いずれ乱世に飲み込まれる。だけど、打って出るには人材が足りない。そこで優秀な人材を一人でも多く配下に加えたい。その方が有利だからね」
「で、ワタシを配下に加えたい、と」
「そ」
「優秀と言っていただけるのはありがたいが、ワタシはオルバック家に仕える騎士だ。忠誠はオルバック様に捧げている」
「ジュニアに?」
ルビンスは沈黙する。
「今この場で返事を求めているわけじゃない。この町を見て決めるといい。しばらくは客分として我が家にお留まりいただこう」
「客分?」
「捕虜ではあっても身分相応にもてなしますよ」
「……かたじけない」
んーん……とは言ったものの、僕、独り身なんだよねぇ。
さて、どう差配しましょうか?
僕はいったん客間を退出して囲炉裏の間に座り込む。
やることはいっぱいある。
なにをどう処理するか、優先順位も大事だよね。
(どうしたもんかねぇ?)
(私に聞いてる?)
(うん、聞いてる)
(何度も言うけど、私はあくまでこの世界のナビゲートとしてあなたをサポートするのが役目なの。決断を下すのはジャン、あなたの役目よ)
(だよねー。言うと思った)
考えること小一時間、木簡十七枚も使ってあーだこーだと整理する。
サラリーマン時代、ノートと付箋でやってきた情報整理術だ。
そして結論を出すと、オギンを呼ぶ。
「お呼びでしょうか?」
「うん、クレタとルダーを呼んできてくれ」
「かしこまりました」
呼ばれてきた二人を囲炉裏の間に通すと、白湯を差し出す。
「仕事を増やしてすまないんだけど、命令だ」
「命令か。なんなりと」
ルダーは、ちょっとこの関係を楽しんでるよね、きっと。
彼も歴史小説好きとか言ってたし。
一方のクレタはむすっとしてる。
判る。
判るよ、クレタ。
僕、結構女づかい荒いのよね、この世界に来てから。
「まず、ルダー。荒れた畑を雪が降る前にならしてくれ。おそらく雪が降るまでに再征はない」
「本当か?」
「次に軍が催されるとしたら確実に百人規模だ。オルバック家以外からも来るとなれば前回より招集に日数がいる。例年ならあとひと月で雪が降る。雪が降る前に、土が凍る前に畑をならしておくんだ」
「承知した」
「同時に畑の前を出来る限り拓いて欲しい。軍を畑に入れたくない」
「それはみんな思っているだろうよ。何人使える?」
人夫の動員人数か。
「三十人割こう。人選は任せる」
「かしこまりました」
言い方が時代劇だよ、ルダー。
「クレタには、しばらくルビンスの身の回りの世話を頼みたい」
「命令なら仕方ないけど、世話を始めたら他の仕事はできなくなるよ」
判ってる。
でも、他に適任者がいない。
「他の仕事の方を割り振る。頼むよ」
「判った」
「早速今日からよろしく」
「今日から? 今から?」
「できれば今から」
「…………準備があるから二時間後でいい?」
「二時間か、仕方ないな。じゃあ、先にザイーダを呼んできてくれ」
「判った」
と、クレタはとっとと出ていく。
「人材不足でございますな、お館様?」
芝居がかってんね、ルダー。
「ホントさ」
「俺も帰っていいか?」
「まだダメ」
「なにかあるのか?」
「うん、切り拓いた土地に少々仕掛けを……」
「面白そうだな」
僕は、ザイーダが来るまでルダーと仕掛けについて話し合う。
「お呼びでしょうか? お館様」
「ふむ、クレタが来るまでルビンスを見張っていてくれ」
「お出かけですか?」
「うん、聞かせられない話があってね」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
僕は、ザイーダ一人と捕虜二人を残して館を出る。
まずはルビンスの従者一人を解放する。
と言うか、羊皮紙に手紙を認め、ホルスを一頭与えて使者にした。
宛先はルビレル。
次に冬ごもりに入るキャラバンからヤッチシとブロー、ノーシを借りて、去年のオギンの役割を頼む。
「俺が黄門様やってやろうか?」
と、ジョーが言ったけど、遠慮してもらう。
で、オギンに使者として隣村に行ってもらう。
そんでもって帰りに村長の孫の少年ケイロを連れてきてもらうことにした。
「ケイロくんか、いい人選だ」
あ、ジョーもそう思う?
なかなか見どころのある少年だよね。
その後、ルダーと別れた僕たちは、カイジョーを交えて傭兵捕虜の扱いを決める話し合いを持つ。
「傭兵のオレが言うのもなんだが、傭兵なんてろくなやつはいねぇぞ」
「まったくダメ?」
「ああ……一人、使えそうなのがいる」
カイジョーと戦って重傷を負ったために逃げられなかった男なんだと。
名前はバンバ・ワンだそうだ。
行動隊長か?
「あいつさえ説得できれば、彼を慕って投降したカレンとブンターも戦力としてあてにできるぞ」
「残りの六人はダメか?」
「ああ、勝ってる時はいいが、負け戦と見ると平気で裏切る手合いだな」
「じゃあ、無駄飯食わせるのももったいないし、解放するか」
「それがいい」




