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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
戦わなければ生き残れない!
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完勝!! そして戦後処理

 ラバナルが魔法陣をスラスラと描く。

 それを見てチャールズが「なるほど」とつぶやく。

 どうやら魔法陣の構築が甘かったらしい。

 一天俄かにかき曇り、てな具合でチャールズの降らせた範囲に分厚い黒雲が湧き上がってざんざんと文字通り滝のような雨が降る。


「サビー、剣兵を十シャル後退させろ」


「は?」


「騎兵をあの雨の下におびき出すんだ」


「なるほど」


 合点がいったサビーはホルスの腹をけって前線へ向かう。


「どれ、ワシも前線へ戻るとするか。騎兵を狙えと言われとるでな」


 びっくりするくらい好戦的だよね。


「怖いくらい好戦的ですね」


 ラバナルと一緒に戻ってきていたオギンが、走り去るラバナルの背中を見つめてつぶやく。

 ホントだね。

 五百年前の人族の苦労が偲ばれる。

 戦場が十シャル後退したことで、街道の出口にスペースが空く。

 それを好機と見た敵軍は、満を持して騎兵を押し出してきた。

 いや、それ、こっちの思うツボ。

 たっぷり水を含んだ畑は人の膝丈ほどもぬかるんで、ホルスの動きを封じる。

 そこにラバナルの鉄の弾丸や弓兵の矢、投石兵の石が降るのだから当たらないわけがない。


「退け、撤退だ!」


 よく通るあの声には聞き覚えがあるぞ。

 同時にジュニアの喚き声も聞こえる。

 こっちはなに言ってんだかよく判らないけどな。

 ま、きっと「退くな」とか罵詈雑言の類とかだろうと思うけど。

 撤退の号令に素早く反応したのは傭兵たちだ。

 判断早いね、さすが命大事な傭兵家業。

 ところが、畑は泥沼だから退くに退けないわけだけど。

 そこに雑木林からキャラバン隊がぬっと出る。


「武器を捨ておとなしく投降せよ!」


 いいとこ持っていくなぁ……。

 戦意を喪失した者たちが次々と武器を捨てて手を上げる。

 よし!

 合戦終了だ。

 お楽しみのアレいってみよう!


「勝鬨じゃー!」


 はい、


「えい、えい」


「おーっ!!」


 ──っくぅー……気持ちいい!






 戦後処理が始まる。

 まずはこちらの被害の確認だ。

 死者は二名。

 ギラン隊から出た。

 ……うん、これは完全に僕の采配ミスだ。

 あー、また怨まれるな。

 重傷者はギラン隊を中心に六名。

 こっちはチャールズとラバナルがある程度治してくれたので後遺症の心配は少ない。

 魔法様様だ。

 そして、チャールズ天才すぎ。


「魔法ってのは、ありがたいですな」


 と、カイジョーがしみじみという。

 判るよ、その感想。

 軽傷はガブリエルが手当てをしてくれる。

 さて、オルバック軍は戦死者五名(内、弓兵三名、剣兵一名、騎士一名)、投降したのが十二名。

 ホルスが三頭。

 こんな感想は不謹慎だけど、案外死なないもんだね。

 結構な激戦だと思ったんだけどな。


「投降者の内訳は?」


「はい、傭兵九名、騎士一名、騎士の従者が二名です」


 と、イラードの報告。


「ほ? 騎士?」


「はい。実際には殿しんがりを務めて味方を全て逃した上、最後まで抗戦する態度を示していたのをジョーが説得したようです」


 グッジョブ、ジョー!


「死者は丁重に葬って、捕虜は三人ずつに分けて見張りをつけろ」


「はっ!」


 おっと。


「騎士と従者は館へ」


「かしこまりました」


 ひとっ風呂浴びてさっぱりしてから客間に通してあった騎士様に面会だ。

 もちろん、捕虜として武器と鎧を取り上げた上に縄で縛られているんだけどね。

 部屋に入ると、そこには騎士と従者、その見張りとしてオギンとなぜかジョーがいる。

 ジョーはこちらを見るといたずらがバレた少年のようにはにかんで頭を下げた。

 なにか企んでるのか?


「まずは名前を聞きましょうか?」


 やや間があって、あの声が答えた。


「ズラカルト男爵領オグマリー区代官オルバック家騎士長補佐ルビンス」


 ちなみにオグマリーというのはここを含めた十三か村の領地の地名だ。


「この町の長をしているジャン・ロイです」


「! 父から若いとは聞いていたが、これほどとは……」


「僕を知っているお父さん?」


「…………」


 あれ? 黙秘?

 僕を知っている騎士なんてジュニアと……お!?


「ルビレル殿はお元気ですか?」


 カマかけたのに眉ひとつ動かさないとは、よく訓練されている。

 もっとも、奥歯を噛み締めたのを僕は見逃さなかったよ。

 僕はルビンスの縄を解かせる


「さて、この町は男爵殿に反旗を翻し、独立を宣言した。僕は、改めてこの地の領主になった」


「そんなことが許されると……」


「思っているよ」


「なっ!?」


「この国は国王の継承問題で争乱の中にある。もう一、二年もすれば領主同士が次の覇権を争う乱世に突入するだろう。そうなったら、誰もが国王になれると思わないかい?」


「…………」


 沈黙は思ったと見たね。

 僕はオギンやジョー、ヤッチシの集めてくれたここ一年の国内情勢を彼に確認するように話す。

 現状認識に齟齬はないようだ。

 ということは、男爵家のどさくさに紛れた増税や、危機感もなく軍備を増強していない怠惰な状況なんかも判っているということだ。


「ところで、ルビンス殿はズラカルト男爵でそんな乱世を生き抜くことができるとお思いか? いわんや代替わりの近そうなオルバック家が命脈を保てるなどとは、よもや思っておりますまい」


 と、断定してみた。


「主人を愚弄するのか?」


 睨む目力が弱いよ。


「愚弄もなにも、辺境の町ひとつ落とせずに二度も退却しているではありませんか」


 と言われれば二の句も継げませんよねぇ。

 優秀なら優秀なほど、そこらへんの分析は冷徹だ。

 あとは封建国家に存在している忠誠をいかに捨てさせるか。

 さぁ、どう攻める?

 ええい、めんどくさい。


「どうです? 僕に仕える気、ありません?」

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