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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
戦わなければ生き残れない!
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交渉下手は(元)日本人だからしょうがないってことにしておく

 こっちから戦を仕掛けておいて「末長く平穏であるため」もへったくれもないのは重々承知してる。

 けど、静かに暮らしたくても勝手に「うぇ〜い」てな具合でちょっかいを出される局面は少なくない。

 この国の現在の状況はまさにそれだ。

 調子に乗っているやつほど、大人しく目立ちたくないやつにちょっかいを出してくる。

 いわゆるマウントってやつだ。

 弱いやつに言うことを聞かせ、自分の思いのままに振る舞い、周りに対して勢力を誇示し、ヒエラルキーの頂点を目指す。

 権力なんてそんなもんだ。

 弱いままだと虐げられる。

 平穏に過ごすためには力の誇示が必要なんだ。

 てなことを懇々と説得する。

 村長は難しい顔のまま黙って聞いているだけだったが、僕は気づいているぞ。

 孫の少年の瞳が爛々と輝き出したのに。

 やがて村長が重い口を開く。


「で? 具体的になにをさせたいのじゃ?」


 うん、条件闘争に入ったとみたね。

 僕らが争うのは既定路線だ。

 ここはすでにこの村がどうこうできるものじゃない。

 あと一、二ヶ月で戦になると言うことが避けられないならば、少しでも村の被害が少なくなる道を選ぶ。

 村長の選択は間違っていない。

 ただし、考え方は間違ってるぞ。

 被害を減らす方向で交渉しちゃダメだ。

 どさくさで利益を得る算段を考えなきゃ乱世じゃ生き残れないよ。

 僕は心の内でこの村の長の首をすげ替える方策を考えつつ、この話し合いで一気に同盟を取り付けるための条件提示を始める。

 もともとある程度考えてきてる。

 当たり前だけど、こちら側に少しでも有利な取引にしたい。

 それも互いにwin=winの関係に見えるようにだ。

 最悪6:4出来れば7:3の関係が望ましい。


(悪党)


 リリムになんて言われようが構わんよ。


「男爵に対してなにもしないと言うのが理想です」


 無理を承知で言っている。

 ここらへんは相手の出方を探るためのジャブみたいなもんだ。


「それは無理じゃ」


「ですよねぇ」


「仮にわしらがなにかをしたとして、見返りはあるのかね?」


 そっちからきたか。

 いいよ、いいよ。

 悪くない。


「今年、男爵を見事追い払った暁には独立を宣言するつもりです。この村を私の庇護下に置きましょう」


 おっと、鼻で笑われた。

 想定通りだけどね。


「領主が変わるだけではないか」


「いえいえ。知らないのも当然でしょうが、私の町はちょっとした先進技術の開発に成功しておりまして、その技術を無償提供いたしますよ。例えば農作物の収量を現在の二割増しにできます」


 それを聞いてピクリと片眉が上がったことを見逃したりはしない。

 ここは辺境の農村だ。

 寒冷で地味ちみが悪く作物のりは決していいとは言えない。

 今より二割収穫量が上がればどれだけ生活が楽になるか。

 さらに追い打ちをかける。


「当然、徴税はいたしますが、耕地面積ではなく収穫量の七割を基準に一部労働奉仕で代弁するつもりです」


「七!? ……代弁?」


 ん? 難しすぎた?

 どう言えばいいんだべ?


「例えば木材の伐採作業をする人手を出せばその分、農産物の量を減らせる……?」


 いや、うまく説明できないな。


「お兄さんのためにたくさん働けば、その分納めるフレイラの量を減らせるってこと?」


 少年よ、君賢いね。

 名前は……ケイロ・ボットだっけ?

 優しい話し方で肯定しておこう。


「そうだよ」


 すげぇ満足そうな顔した。


「働けば働くほど納める分が少なくなると言うことですか?」


 おっと? 村長の言葉遣いに心持ち敬語感出てきたぞ。

 もう一息だな。


「そうです。もちろん徴税ですからこちらの要求以上の労働は対象外ですがね」


 労働だけで納税されても困るから、その辺の塩梅はこちらで決めさせてもらうよ。


「おじいちゃん、悪くない条件だよ?」


「そうじゃのぅ……じゃが、こんな小さな村では収穫量も人手もたかが知れとるでのぅ……」


「村に余所者が増えるのは好ましくありませんか?」


「え?」


 日本ではムラ社会なんて言葉があったくらい村ってものに排他的イメージを持っているんで聞いてみたんだけど、言い回しが判りにくかったかな?


「新しく村人を増やすのは抵抗がありますか?」


「働き手が増えて村が栄えるのを嫌がるわけもありません」


 …………。


 うん、細心の注意を払って施策しないと軋轢が問題になるな。

 言動からそれが判る。

 僕以外、流れ者が集まってるうちの町でさえ、いざこざの噂は時々聞こえてくるからなぁ。

 これも、政策の検討案件だ。


「さて、村長。どうでしょう? 私の庇護下に入る気はございませんか?」


 長い沈黙が続く、やがてケイロがそっと村長の膝に自分の手を添える。

 見つめ合う二人。

 村長が大きく頷いてみせ、ケイロの頭を撫でる。


「判りました。あなたが男爵を追い払うだけの力があると言うのなら、我々はあなたに従うと誓いましょう」


 ホッとした。

 正直、こんな程度の低い交渉でうまくいくとは思ってなかった。

 いや、下地があったってことだ。

 町を目指して何十人という人々がこの村を通ってきた。

 オギンなどがなんども街へ通っている。

 ジョーのキャラバンが頻繁に行き来するようになっていたことも村長の判断材料になっていたに違いない。

 僕の申し出が強引だったとしても、損得勘定で得と出たということだ。


 …………。


 でも、こんなんじゃいつ下手を打つか知れたもんじゃない。

 次から外交交渉は専門の人間を派遣することにしよう。

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