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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
戦わなければ生き残れない!
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お館様は気配感知を覚えた。 弓の命中精度が上がった。 いつの間にかじゃない、努力は実を結ぶんだ。

 道はデコボコの砂利道でとりあえずキャラバンが通ったわだちが草の中に見えている程度。

 最近は人の往来がそこそこあるっていうのにこれが道かという有様だ。

 一応、原生の森を切り開いて作られた「道」ではあるけど、ここまで獣道然としたものだとは思ってなかった。


「これを徒歩で歩くのか……そりゃあ三日はかかるよなぁ」


 下手したら迷子だよ。


「この辺りはモンスターが出ないのでマシな方です」


 と、オギンが答える。

 そうか、この世界はモンスターもでるんだよね。


「悪いことしたな」


「なにがですか?」


「あー……いや、ちょくちょくオギンを一人で行かせてるじゃない? こんなだと思ってなかった。僕は元々村で生まれ育って村から出たことがなかったし、野盗に襲われて以降は村の復興で手一杯だったのもあるんだけど、これからは町の外のことも考えていかなきゃダメだ。うん」


「……具体的にはどうなされるんですか?」


「ん? そうだね……もう少し往来を増やすのがいいかな? 片道三日は遠すぎるから間に二箇所、駅を作るのが先かな?」


「……エキ?」


 ん?

 ああ、そうか。

 駅伝制度があるならこんな道路事情な訳がないよな。


「ええと……宿場?」


「道の半ばに宿を作るのですか?」


「そうだよ。野宿は大変だろ?」


「確かにナルフやバヤルなどの獣におびえながら夜を過ごすのは神経をすり減らしますから、宿があるのなら助かりますね」


 ホント、ごめん。


 しばらくすると道脇の林の下草がやたらとハゲ散らかした感じのところに出くわす。


「お館様、そろそろ休憩の時間です」


「休憩?」


「はい、ホルスを休ませる時間です」


 ああ、なるほど。

 ホルスをおりて木に繋ぐと、オギンが桶を持ってこういった。


「水を汲んできます」


「一緒に行こう。その方が早いし……」


「いえ、一人が水を汲み、一人がホルスの番をする。これは基本です」


「……そう」


 ふむ、仕方ないか、旅慣れた人の言うことは聞くべきだ。

 お留守番は退屈だ。

 草を食む二頭のホルスをぼーっと眺めているより他はない。


「リリム」


「なによ?」


「近くに生き物の気配はない?」


「あるにはあるけど、ラバトかしら」


 危険はないわけだ。


「僕は割と神様に優遇されてる?」


「どうしたのよ、急に」


「いや、なんとなくね。記憶の戻る前の生活は結構恵まれてたというか穏やかだったし、村の位置がこんな僻地で俗世と離れていたことはとても幸運な気がしてさ」


「そうね、条件としては恵まれた環境に生まれたかもしれないわね」


「やっぱね」


 僕はちょっと目を閉じて深くゆっくりと呼吸を繰り返すと大自然の音に耳をすます。

 葉を揺らす風の音。

 虫の鳴き声。

 ホルスが草を食む音。

 遠く、せせらぎも聞こえる。


 あれ?


「これは人の気配?」


「え?」


 小川の側かな?

 ってことはオギン?


「あれ、僕結構すごくない?」


「本当に感じているんだったら確かにすごいわね。他にも感じられる?」


 リリムに促されて、再び心をすます。

 小さな気配がせわしなく動くのが判るぞ。

 リリムの言ってたラバトってこれか?

 だとしたら近づいてきてるな。

 僕は、弓を取り出し矢をつがえ、気配のする方角へ向ける。

 林の奥に目をこらすと……うん、ラバトだ。

 僕だって神様から少しは優遇されているらしいじゃないか、当たるさ、絶対。

 きりきりと引き絞って狙いを定めると、ヒョウと矢を放つ。

 狙い違わず命中する。

 よしっ!

 草をかき分けラバトを取ってくると、オギンが戻ってくるまでの間に血抜きなどをする。


「お館様」


「おかえり」


「どうしたのですか? そのラバト」


「たまたま近くに来てたんで仕留めた」


「村へのいい手土産になりますね」


「ん? そうだね」


 すっかり忘れてたよ、礼儀がなってないと思われるところだった。


「でも、だったらあと二、三羽は仕留めたいかな?」


「欲張りですね」


「そうかな?」


 休憩は半時間ほどで終わる。

 ホルスが水を飲み干したら出発だ。

 移動と休憩を何度か繰り返して進むと、途中で野営の跡が何カ所かに見て取れた。

 この何カ所かを全部宿にするのは無駄だな。あんな奥の村にはそうそう用もないしね。

 ま、それもこれも男爵との戦が一段落してからだけど。

 もしかしたら男爵が道を整備してくれるかもしれないし。

 道々そんなことを考えたり、オギンと世間話をしているうちに日が暮れて、松明片手にもう少し進んだところに昔の僕の村によく似たたいって普通に村が見えてきた。

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