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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
一人(と一匹?)暮らし
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それは役に立つ?

 ということで、まずは家を建てる場所決めだ。

 え? まずトンカチじゃないかって?

 そこで悩んでいても始まらないんで体を動かすことから始めようってわけだ。

 焼跡だらけの集落に建てるのは居心地が悪いんで水車小屋のそばに建てることにした。

 もちろんそれなりに理由がある。

 まず、水を確保するのが楽。

 井戸が使えなくなっているんだから用水路は大事な水場だ。

 僕一人でしばらく暮らすんだから水汲みなんて重労働は少しでも省力化するのは合理的ってもんだろ?

 次に使えそうな棚板や柱をかき集めても小さな掘っ建て小屋以上のものができないのがわかっているから、水車小屋も利用しようって魂胆なわけだ。

 寝泊まりはこれから作る小屋で、ものを置いたり作業するのに水車小屋を。

 頭いいね、僕。

 最後に用水路は雑木林に近いんだ。

 僕の生き死には雑木林が握っているといっても過言じゃない。

 一人しかいないんだから水汲み同様、利便を考えなきゃ時間も浪費するし疲弊しちゃう。


 ということで、その日のうちに集落から水車小屋へと資材を運搬する。

 僕の肩のあたりを飛んでる妖精はうるさいだけでちっとも役に立たないからな。

 なんとか日が暮れるまでに運び終えた僕は、疲労で重くなった体に鞭打って夕食作りを始める。


 …………。


 そういえば火口も消耗品だな。

 そう思った僕は、飯ができるまでの間に簡易のかまどを作る。

 土をお椀型に盛って叩き締め、横穴をくりぬいてカマクラみたいにする。

 その後慎重にてっぺんからくり抜いて出来上がり。

 この辺は用水路が作られていることから分かる通り、粘土質の土だからそれなりの強度があるはずだ。


 …………。


 大丈夫、壊れたりしないさ。

 と、自分に言い聞かせて飯炊きの残り火をかまどに移す。

 これで明日からの食事の支度が楽になる。

 ……はず。

 火が風などにあおられる心配が減るのと、火を閉じ込めておくことで火力が安定し、熱が空中に拡散しないから高火力が得られる。

 ……はず。

 そして、火が飛び散ったり消える心配が減るから火をつけっぱなしにできる。

 自分が薪をくべ忘れなきゃね。


 飯を食った後、水車小屋で泥のように眠った僕は、翌朝も無事に迎えることができた。


「おはよ」


「おはよう!」


 リリムは朝から元気だ。

 煮炊きに使っている穴に籾殻を入れて、昨日作ったかまどの中をほじくり返して火種を探す。

 よかった、残ってる。

 それを籾殻に乗せて息を吹きかけると煙がもくもくと上がる。

 なかなか火が移らない。

 咳き込みながら悪戦苦闘の末に着火に成功した僕は、今日の飯作り。

 飯を作りながら今日することを枝で地面に書き出す。

 前世でよくやったトゥドゥリストってやつだな。

 今日の作業は大きく二つに絞る。

 一つは薪集め。

 これには午前中いっぱい使おう。

 できれば二、三日しのげるほど集めたいけど一人で午前中だけってのはまぁ、難しいな。 いいとこ明日の分までだろう。

 薪をストックするには向こう十日くらい毎日午前中まるっと使って、その先十日分用意できるかできないかってとこだろうな。

 午後は縄張り作業だ。

 といっても縄がないので地面に線を引くわけだけど。

 そのそばに板を並べて「数が足りない」だの「尺が足りない」だの言いながら何度もやり直す。

 ところで『尺』ってなんだ?

 あやふやな前世知識ってことで収めとこう。

 ちなみにこの世界の長さの単位は親指の第一関節までの『スンブ』と手首から肘までの長さで測る『シャッケン』が基本だ。


 …………。


 ああ、尺ってシャッケンのことか。

 そのスンブとシャッケンを使って木組みのホゾを作ったり柱を立てて組み立てたり。

 そんなこんなを十日ほどかけてようやく土間を囲っただけの掘っ建て小屋が出来上がった。

 うん、このままだと冬が過ごせない。

 けど、板はもうない。

 さて、どうしたものか……。

 現世知識は無学の百姓の小せがれ十五年分。


 …………。


 いい案は浮かびそうにない。

 前世知識はDIY好き、歴史オタの四十半ばのおっさんのもの。

 なんか出てこないか?


 前世知識は現世の知識に邪魔されているのか、簡単に引き出せないようだ。


「参ったなぁ……」


「何を参ってるのよ?」


 僕は、かくかくしかじかと喫緊の問題である現状を説明する。


「で?」


「あー、うん。前世の知識がなかなか出てこなくて」


 するとリリムは僕の目と鼻の先に浮かんで腰に手をやり、坊主の説教というか先生ができの悪い生徒に言い含めるような話し方でこういった。


「前世の知識はあくまで前世知識なんだから、引っ張り出すには前世の記憶をたどんなきゃだめよ」


 なるほど、現世とリンクしてないから記憶を辿って知識を現世の頭にダウンロードしなきゃなんないんだな。


 ところで坊主とかダウンロードってなんだ?

 いやいや、今は横に置いといて前世の記憶だな。


「……っつーか、記憶ってそんな完璧に思い出せないだろ」


「ところが神様が言うにはね」


 と、神の御使いたる天使なのか見た目通りの妖精なのかわかんないやつが説明するには、記憶ってのは逐一脳に記録されるんだとさ。

 ただ、インデックスが追いつかないんで記憶が散逸ロストした状態になるんだそうだ。

 それがいいのか悪いのか、転生する際に全ての記憶が新しい脳にコピーされる過程でインデックスが作られる。

 だから意識的に考えれば大抵のものが引っ張り出せるんだと。

 試しに気になった単語である『坊主』『ダウンロード』『インデックス』に『コピー』を脳内検索したところたちどころにいくつかの記憶とともに知識が現世の僕に定着する。


「ほぅ、こりゃあ便利だ」


「でも、あくまで記憶にあるものだけだよ、呼び出せる知識は」


「大丈夫。僕の前世は中学の頃からのオタクだから、覚えてないだけで相当膨大な量の資料を調べてきた記憶を蓄えてる……はず」


「……ちなみに、何オタ?」


「歴史とアイドルと漫画アニメ特撮」


「…………」


 …………。


「役に立つ?」


 ど、どうでしょう?

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