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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
村長(ぼく)が好きなこの村も、村人(みんな)が好きとは限らない。
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オギンからの報告

 オギンが帰ってきた。

 それと前後して移住者が引きも切らずって感じでやってくる。

 ちょっとペースがやばい。


「何をしたんだ!?」


「お館様のご指示通りに村の情報を流しただけですが?」


 ……有能すぎじゃね?


「……そっちの件はいいや。国の情勢の報告をしてもらおう」


 本当は良くないんだけどね。

 急激に村の人口が増えると色々と軋轢が生まれるからさ。


「はい」


 場所は館の奥座敷、囲炉裏のある例の部屋だ。

 囲炉裏には炭を絶やさないんでほんのりあったかい。

 ここに僕とオギンの他にジョー、イラード、ルダー、が集められていた。

 さながらこの村の首脳会談だ。


 まずはざっくりリフアカ王国の政情について。

 正当な先王崩御後、一旦は長子が後継者として選ばれたものの戴冠式で暗殺されたのが十七年前。

 十三年前に先王の弟がどさくさ紛れに王位に就いたことで継承争いをしていた王族が次々に王を僭称。

 王家の権威が失墜したことで各地の領主が離反。

 七年くらい前から自治独立の動きが相次いでいた。

 その後各地の領主が領土的野心を持ちだし、小競り合いが始まると王国内の治安が急速に悪化、三年前には僕の村が野盗に全滅させられた。

 僕たちが村の復興にかかりきっている間に世の中はますます殺伐として、ついに去年の秋に大規模な軍事衝突が起きた。


「ああ、ついに起きたか」


 と、つぶやいたのはジョー。

 僕も同じ感想だ。


「誰が誰に仕掛けた戦だったの?」


 僕が訊くと、オギンは壁掛けの大きな地図を指差しながら説明する。


「南東部を領するソクタンカ仲爵が、自分が庇護していたヨワーネ様を『王を僭称した大罪人』として討ったそうです」


 ほぅ。


 ちなみに王国ははくしゃくちゅうしゃくしゅくしゃくしゃくだんしゃくの五爵位がある。

 ソクタンカ仲爵家は代々王国軍の指揮官を排出する名門の一つで、当主は野心家ではないという。

 その仲爵を頼ったヨワーネってのは王位継承権を持っていたかも怪しい末端の、それでも一応王族だったそうだ。

 事の顛末的には実力も名声もないから仲爵を頼って命を永らえていたのに、誰かの怪しい口車に乗せられて王を名乗ったことが仲爵の逆鱗に触れたって事のようだ。


「ソクタンカ仲爵とすれば、王家の争いから逃れてきたから保護していたのに『進んで争いに参加しようだなんてけしからん』ってとこか?」


 と、ルダーが言えば


「それもあるだろうけど『オレを争いに巻き込むな』ってのが本音じゃないかね」


 と、ジョーが返す。

 まぁ、僕もそんなところだと思う。


「問題は、武力解決で王族を一人殺しちゃった事なんだよねぇ」


「どういう事ですか? お館様」


 イラードが理解できなかったようで訊ねてくる。

 オギンもルダーもおんなじ表情ってことは判ってないな。


「ソクタンカ仲爵はその軍事行為を単なる謀反人討伐だと考えたんだと思うんだ」


「実際そうではありませんか?」


「まぁ、そうなんだけどね」


「そう取らない連中がいるってことか?」


 あれ?

 ジョーも判ってなかったの?

 表情からは読み取れなかったよ。

 さすがというべきかな。


「『そうは取らない』じゃなくて『そういうやり方があるんだ』っていう気づきを与えちゃったっていうね?」


「大義名分ってヤツか」


「そ。今までは領地紛争みたいな元から対立していた同士の小競り合いだったものが、『大義名分さえあれば相手を滅ぼしてもいいんじゃね?』っていう話になって、一方的に戦争が仕掛けられていくことになるだろうって話」


「それはおおごとですね」


「なるほど、そういうことだったのですね」


「どうしたオギン?」


「いえ、その事件の後各地で一斉に軍事衝突が頻発したようで、一気に内乱状態に陥ったという次第です」


「さながら群雄割拠だな」


「ジョー様?」


「いや、なんでもない」


 うん、僕には判るよ。


 秋から冬にかけての数ヶ月で国内の軍事衝突は二十以上発生したようだ。

 そのほかにも仲爵の先例を利用して王族が攻め滅ぼされている。

 中には暗殺まがいの手段もあったようだ。

 まったく、えげつない。

 人間、(たが)が外れるとロクなもんじゃない。


「ところでオギン」


 と、僕は訊ねる。


「はい」


「軍勢は何人規模だったのか、調べがついてる?」


「そこは抜かりなく。ヨワーネ討伐に差し向けられた軍勢が四十二名、迎え撃った手勢が二十四名。全員討ち死にとのことです。この後の戦もおおむね五十人規模ですね」


 まだその規模か。

 いわゆる家の子・郎党のみの軍勢だ。

 それならまだ対処のしようがある。

 物の本によれば王国軍の動員兵力二万五千人。

 王国の規模から考えれば少ない気もするけれど、何百年と国内が安定し他国との大規模な衝突もなかったから経費削減で常備兵が減らされていったんだろう。

 それを補うのが貴族の私兵だったわけだ。

 ここら辺りは日本でも平安時代に例がある。

 日本の場合、桓武天皇によって事実上国軍を放棄しちゃうなんて暴挙に出ちゃうから武士の台頭を許すことになるわけだけど。


 …………。


 日本って昔から極端なのね。

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