秋だけど春なんです
階下から漂ってくるおいしそうな香りに起こされた。
体は少し重い。
(仕合の後はこんな感じになるとこが多かったな)
などと妙に懐かしく思いながら下に降りる。
「よう、やっと起きてきたな」
と出迎えてくれたのはルダーだった。
むーん……微妙に嬉しくないな。
(やっぱり女性に起こされたい)
などと思いつつも、なんでまたルダーが僕の《ん》館にいるのか疑問に思っていると。
「ヘレンにな」
と、まるで僕の心が読めるかのように説明してくれる。
「ヘレンがな、ずっと気を張ってたやつは肩の荷が下りると体調を崩すことが多いから、あったかくてうまいもんを食べさせてやれって持たせてくれたんだ」
なるほど。
おじいさん商隊長さんが亡くなったのもそんな感じだった。
「滋養にもいいぞ。デーコンポモイトスープだ。肉はラバトの塩漬けを使ってる」
「それはうまそうだ。じゃあ、遠慮なくごちそうになるよ」
「おぅよ」
もう随分前から自炊になっていて、最近は食べる機会もめっきり減ったけど、ヘレンの料理はうまいんだ。
食事をしながら僕は村の様子を訊ねる。
「今日はみんなゆっくり起きて今は村人総出で宴の準備をしてるぞ」
農作物の収穫作業も一段落ついてるし、雑木林の収穫はピサーメ以外まだ少し早いと聞いてるからちょうどよかったのかもしれない。
「誕生会と収穫祭と戦勝記念の宴だね」
「おお、景気がいいな」
「捕虜の容体は?」
そう訊ねると、ルダーの声のトーンが少し落ちる。
「二人はお館様が去って間もなく死んだ。もう一人は『苦しい、殺してくれ』って言うんでイラードが楽にした」
そうか。
「生き残りは例の男の家で見張られている」
手引き役の男は戦闘で死んでいるから、今は空き家ってことになるんだし有効利用ってやつだな。
「様子は?」
「縛られてるからってのもあるんだろうけど、おとなしくしているぞ」
「尋問は?」
「まだだな。お館様待ちだ」
なるほど。
「じゃあ早速行こうか」
と、僕はヘレンの作ってくれたスープを持って立ち上がる。
「おいおい、それ、持ってくのか?」
「うん。どうせなにも食わせてなかったりするんだろ?」
「よくお判りで」
野盗に対する村人の感情なんて推して知るべしってもんさ。
この場合、『好都合』なんだけどね。
男の囚われている家までの道々でルダーと世間話をしよう。
「ヘレンは順調かい?」
「ああ、おかげさまで安定期だよ。そうでもなきゃスープなんて作ってもらえてないだろ」
確かにちょっと前までつわりがひどくてルダーが食事の支度をしてたな。
「どっちかな?」
「さあな。前世世界じゃあるまいし、生まれてくるまで判らんよ」
「違いない」
「アニーは妹ができると信じてるみたいだけどな」
「そうか。村が復興して初めての子供だね」
「そうだな。どうでもいいが、ジャリの視線が痛いわ」
憧れの姐さんだったみたいだからねぇ。
「そういや、チャールズとガブリエル。正式に結婚することにしたそうだ」
「そりゃめでたい」
なんてとりとめもなく話していると案外すぐに着くもんだ。
見張りにはジャスが立っていた。
「ケガは大丈夫かい?」
「ザイーダが言うにはこれくらいの傷なら痕も残らないんじゃないかって」
「そりゃあよかった」
「うまそうですね。ヘレンさんのスープでしょ」
よく判るねぇ……。
ああ、もともと同郷ってか、ヘレンを慕ってついてきたんだっけか。
「一緒に食う?」
「いいんすか?」
「いいよ」
「ルダー、ごめん。ちょっとの間代わりに見張りお願い」
「はいはい」
ルダーは二つ返事で引き受けてくれた。
中に入ると殺風景な家だった。
腰を据える気なんかサラサラないって言うのが家財道具から見て取れる。
奥の部屋のドアを開けると、ベッドの上に後ろ手に縛られた男が、心配そうにこちらを見てくる。
僕は辺りを見回して武器になりそうなものを確認する。
椅子とか鍋釜程度だな。
包丁さえないってのはどうやって調理してたんだ?
ジャスに指示して縄を解く。
「腹が減ったろ? 一緒に食おう」
その提案はよっぽど彼の想定外だったんだろうか?
惚けた顔して返事一つ返ってこない。
スープを温めなおすようにジャスに頼んで、その間にもう少しコンタクトを取ってみることにする。
さて、硬軟どっちでアプローチとるのが正解なんだ?




